愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
ミルクティー色のふんわりとカールさせた髪を今風にラフに結わえ、薄口の顔にやや濃いめのメイクをした梢が嫌そうに顔をしかめている。

「少々、お待ちください。今、上の者に代わりますので」

保留ボタンを押した梢に受話器を押しつけられ、成美は目を瞬かせた。

「お願い、対応して」

「どういうお電話ですか?」

「モップ用クリーナーについての苦情。まくし立てられて耳が痛い。かなり怒っているから気をつけて」

成美は高校卒業後にすぐ入社したため、短大を出た梢より二年ほど先輩にあたる。

上の者と言われたが、ただの平社員で上司ではない。

梢の方がひとつ年上で入社時から気さくに話してくれて仲もいいけれど、成美はいつも敬語だ。

年上に対して丁寧な口調になるのは子供の頃からの習慣で、『壁を作られているみたいだからやめて』と言われてもどうにも崩せなかった。

「わかりました。苦情の対応は私がします。梢さんには、この請求書の作成をお願いしてもいいですか? すみません」

「〝すみません〟はこっちの台詞だよ。成美ってほんと真面目だよね。普通は嫌な仕事を押しつけないでって怒るところでしょ」

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