愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
店のガラスドアから路肩に黒塗りの個人タクシーが停車しているのが見え、迎えに来た彼がそれに乗っていると思われる。

「お騒がせしてすみませんでした。お先に失礼します」

騒々しかったのは梢と高木だが、成美は仕事中の従業員全員に頭を下げてからドアに向かう。

すると梢に待ったをかけられた。

「服はいいと思うけど、ネックレスもピアスもないね」

「はい。ピアスは穴を開けていません。ネックレスは冠婚葬祭用の真珠しか持っていませんのでつけてきませんでした」

「えー、せっかくのデートなのにアクセなしは駄目でしょ。これ貸してあげる」

梢が襟元から自分のネックレスを引っ張り出そうとしているので、成美は慌てて断る。

「もしなくしてしまったら大変ですし、今日のところはこれでいいことにします。お相手をお待たせするのも心苦しいので」

「それもそうだね。行ってらっしゃい。頑張ってね」

梢の励ましを恥ずかしく思いつつ外に出て、ハザードランプを点滅させているタクシーに近づいた。

後部席のドアが開くと、ネイビースーツの朝陽が降りてくる。

「定時で仕事を上がれたんだね。お疲れ様」

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