愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
朝陽も職場からまっすぐに来たのか、お見合いの時より髪をワックスできっちりとまとめたビジネスヘアで、ライトグレーと水色のストライプのネクタイを締めている。

仕事のできる男性といった風貌の彼をビルの間から差し込む夕日が照らし、なるみは眩しさに目を細めた。

(お会いするのは三度目なのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう)

お見合いの時にも緊張したが、今の方が鼓動が高まって挨拶が変に硬くなる。

「藤江さんもお仕事お疲れ様でした。迎えに来てくださって誠にありがとうございます。お手数おかけして申し訳ございません」

すると拳を口元にあてた彼がプッと吹き出す。

「成美さん、硬いよ。真っ赤な顔で礼儀正しく挨拶してくれる君も可愛いけど、デートの始まりから緊張したら疲れてしまう。もっと気を楽にして」

「デート……?」

そのつもりはなかったので成美は目を丸くしたが、朝陽に聞き流され、スマートな仕草で後部席に乗せられた。

(お互いにお付き合いする気はないのだから、デートという言い方はおかしい気がするんだけど)

彼が隣に座るとすぐにタクシーが発車した。

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