悪役令嬢は推し神様に嫁ぎたい!〜婚約破棄?良いですよ?でも推しの神様に嫁ぐため聖女になるので冤罪だけは晴らさせて頂きます!〜
 ティアリーゼは何とか息を整え、ゆっくり顔を上げた。
 少し離れた場所に佇む男の姿を見て、せっかく出来るようになった呼吸がまた止まりそうになる。
 何故なら、視界に映った男の姿は焦がれた方その(ひと)だったのだから。

「ストラ、様?」
「ほう、姿だけで私が分かるか?」

 切れ長な、ルビーのように赤い目。
 通った鼻梁に楽し気な笑みを浮かべる薄い唇。
 輪郭は女性の様に滑らかでありながら、しっかりと男の面差しをしていた。

 黒曜石のように光を放つ長く真っ直ぐな黒髪は、緩く一つに結わえられ胸の前に垂らされている。
 髪と瞳の色に合わせて、身に纏う衣服は黒を基調に差し色で赤が所々にあった。
 極めつけは長い裾に刺繍されているクジャクの尾羽のような模様。
 かの方の使役獣であるフェニックスを表している。
 その姿こそ、ティアリーゼが幼い頃から推してきた軍神ストラそのものだった。

「ほ、本当にストラ様⁉」

 目の前に焦がれた推し神がいるということが信じられず、胸が高鳴り呼吸もままならない。
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