モノクロに君が咲く
俺も人のことは言えないな、と思いながら、いまだ止まらない涙を拭う。
俺の方に歩いてきた弟くんは、今度は鈴の絵を見上げながら切なげに微笑んだ。
「ようやく、姉ちゃんの夢が叶ったんだ」
「……夢?」
「あんたを追い越して、金賞を獲るって夢」
俺は、え、と目を瞠る。
「それが鈴の夢だったの?」
「うん。姉ちゃんが病名宣告をされた年──あんたが初めて、絵画コンクールに作品を出した年。ほんとにたまたま展示会に来てさ。そこで姉ちゃんは、あんたの絵と出逢ったんだ」
中一。つまり、俺の世界が色を失って灰を被った直後だ。
「運命の出逢いだって言ってたよ。絶対にこの絵を超えてみせる。絶対に私が金賞を獲るって、病気のことなんか忘れたみたいに言ってた」
「運命、の」
ふいに脳裏に過った鈴の言葉。
『私にとっての運命の出逢いは、ぜーんぶ先輩ですって』
俺は唇を震わせた。あれはそういう意味だったのか。そんなに前から鈴は俺のことを認識してくれていたのだと、いっそ頭痛すら覚えながら実感する。
「それが姉ちゃんの生きる意味だったんだ。寝ても醒めても絵を描いて、毎年『また負けちゃった』って悔しがって笑って。いつもいつも、すごく楽しそうにあんたを追いかけてたよ」
「……っ」
「あんたと出逢ってからは、とくに毎日幸せそうだった。……去年のコンクール、姉ちゃんは最後だと思ってたんだ。結果を見て『結局最後の最後まで追い抜けなかったなぁ』って泣いてたよ。たぶん、コンクールで泣いたのは初めてだったね」
その声は俺と変わらないくらいに頼りなくて、ひどく震え交じりだ。