モノクロに君が咲く
俺が鈴の絵に魅入ってしまったのと同じように、食い入るように見つめていた。
「なんであんた、これ描いたの」
「っ、え?」
「これ、姉ちゃんだろ」
弟くんの静かな追及に導かれて、俺は改めて自分の絵を見る。
透き通るような薄青の空の下、キャンバスいっぱいを咲き乱れる桜の巨木。そのふもとで、長い髪を風に攫われながら花びらに手を伸ばしている少女。
色づいているのは、空と桜と少女だけだ。それ以外はすべて灰に染まっている。
モノクロと色彩の対比は、一見してみればひどく歪だ。芸術と言えば聞こえはいいが、長年描いていなかっただけに、技術もなにもかも圧倒的に不足している。
けれど、これこそが俺の描きたかったものだった。
皮肉なことに、色づいた世界に足りなかったのは俺の灰だったのだ。
銀賞を取れたのも不思議なくらいの完成度なのに、俺はこれを描き上げたとき、たぶん人生でいちばん満足した。
心の底から、ようやく描きたいものが描けたと思った。
「……なんで、なのかな。描きたかったから、描かないと後悔すると思ったからとしか言いようがない。描きたくて描きたくて、衝動が抑えきれずに描いた絵なんだ」
これは、俺に見えていた鈴の姿だ。
──タイトルは『モノクロに君が咲く』。
「馬鹿だよなぁ、なんか。あんたも姉ちゃんもお互いのことを描いてるのにさ。それで優劣を決めちゃう絵画コンクールに出すんだから」
「……それは」
「わかってるよ。絵を描く人間同士だからだろ」
ようやく弟くんはこちらを向いた。その目はすでに赤く充血しているように見えた。