モノクロに君が咲く
──そう榊原さんで学んだ俺としては、正直この状況は甚だ疑問だった。
残念なことに、彼女が望んでいることを正しく察する能力は俺にはない。
けれど、俺の勘違いでなければ、おそらく小鳥遊さんは日々好きだと伝えてくるわりに、それ以上のことを望んでいるわけではないのだ。
ましてやこちらの気持ちも、彼女はそこまで重要視していない。
なんだったら嫌われてもいいと思っている節もある。こちらがなにか動けば、一歩でも踏み込めば、そのぶんだけ離れていってしまいそうで──。
たぶん、俺は怖いのだろう。
彼女との関係が変わってしまうことが。
彼女と過ごしてきた心地よい時間が終わってしまうことが。
万が一、好きが恋愛的な好きではない可能性も捨てきれないからなおのこと。小鳥遊さんのことを意識しているからこそ、俺は、彼女の言葉から逃げている。
「……あの、さ」
「あ、もうこんな時間! 私、帰らなきゃ」
ふとスマホの時刻を確認した小鳥遊さんは、慌てたように立ち上がった。
問いかけようとした言葉が行き場を失って引っ込んでいくのを感じながら、俺も時間を確認する。
四時五十八分。夏を目前に控えたこの時期、だいぶ日が伸びてきたおかげで、部活の終了時間はだいたいどこも六時過ぎだ。美術部も例に漏れず、平日の放課後は毎日のように日灯し頃まで筆を走らせるのが通例だった。
──いつもは、俺が終わるまでいるのに。
なんて、まったくもって俺らしくもないことを思う。なんとも言いようのない寂しさを募らせながら、俺は後片付けをする小鳥遊さんを目で追った。
「……まだ早くない?」