この手紙をキミへ
あれから一年が過ぎて、図書館の窓辺から桜の花びらが舞い込む季節がやってきた。

「綺麗だな……」

私は手紙に降りてきた花びらをつまみながら、明日配達分の仕分けを終えると鞄を抱える。そして図書館扉に手をかけたときだった。あわてて走り去る人影が扉のすりガラス越しに見えた。

(え? もしかして……)

直ぐに扉を開いて廊下に視線を移せば野球部のユニフォーム姿の男の子が見えた。その姿はどんどん小さくなっていく。

「待って!」

駆け出した私は無我夢中で男の子を追いかける。男の子が角を曲がる寸前で私はもう一度大きな声で叫んだ。

「手紙っ、受け取らせてっ!」

声が届いたのか男の子は立ち止まるとゆっくりと振り返った。

(え? )

私が動けずにいると男の子は私の目の前まで歩み寄って、両手で手紙を差し出した。

「……この手紙をキミへ」

頬を搔きながら恥ずかしそうに差し出された手紙には『二年三組 早瀬野乃花様』と宛名が書かれていた。

「あ、りがと……」

手紙を受け取りながら私の顔も桜色に染まっていく。男の子は生真面目にぺこりと頭を下げると再び駆けていく。

その後ろ姿を眺めながら、恋の始まりを告げるように私の胸はとくんと跳ねた。









2023.2.9 遊野煌 

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