夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
それから稚沙は宮内を、裳を軽く手で持ち上げた状態で、ヒラヒラとなびかせながら、駆け抜けるようにして走り抜けていく。
今はちょうど夕暮れ時で、宮の人もだいぶ少なくなってきており、人とぶつかる心配もなかった。
(今が夕暮れでちょっと助かったかも)
そして彼女は小墾田宮の一番奥にたたずんでいる、炊屋姫の大殿の側までやってきた。
すると大殿の前には誰かが1人で腕を組んで立っている姿が見える。その人物は何やら大殿の方をじっーと見つめているようで、建物の中にいる誰かを待っているのだろうか。
(あれ、ひょっとして、あれは椋毘登だわ)
彼は相変わらず、青の色染めの綺麗な衣装をよそおい、腰にはたいそう立派そうな刀を携えていた。彼の年齢でこれほどの刀を持てるのは、やはり彼がそれ相応の刀の使い手だからなのだろう。
稚沙は大殿の前までやってくると、何故かその場にいる椋毘登にふと声を掛ける。
「椋毘登、あなたも来ていたの?」
椋毘登はふと振り返って稚沙の姿を見るなり、少し目を細め、肩の力を抜いてから、平然とした様子で彼女に答える。
「あぁ、稚沙か。俺は馬子の叔父上の付き添いだ。それで部屋の中での話が終わるまで待っているんだ」
彼は蘇我馬子の護衛なので、基本的に他の仕事がない時は、馬子によく付き添っている。
「ねぇ、椋毘登のことだから、最近起こっている事件のことは知ってるんでしょう?」
「あぁ、もちろんさ。今叔父上達はその件で話をしたいる最中だからね」
椋毘登はそういって再度大殿の方に目を向ける。彼もこのことの重要性を理解しているのだろう。今日は心なしか少し顔を厳しくさせている。
(椋毘登も、やっぱり気になるのね)
「ねぇ、椋毘登。その件で私一つ思いついたことがあるの」
「思いついただと?」
「うん、今回狙われるのは寺院だけだわ。つまりそれ以外は全く狙われれない」
「まぁ、確かにそうだな」
「だがら、次に狙われるのはまだ被害が出てない寺院になると思うの」
椋毘登もそれを聞くなり、彼女の意図していることの意味を理解したようで、急にハッとした様子を見せる。
「そうか、なら次に狙われそうな寺院に先回りして、見張っていれば......」
「そしたら事件の真相が分かるって訳よ!」
稚沙がそう答えたちょうどその時、いきなり大殿の中から炊屋姫があらわれた。そしてその後には蘇我馬子と厩戸皇子が続いて出てくる。まさに今話し合いが終わったようだ。
「何だ、椋毘登だけではなかったのか」
「あら、稚沙、あなたも来ていたの?」
炊屋姫と馬子は、てっきり外にいるのは椋毘登だけだと思っていたようで、いきなりその場にいた稚沙に少し驚いている。
「か、炊屋姫様!実は今回の事件について思いついた事がありまして!!」
稚沙がひどく興奮気味にして話をしようとするも、横にいる椋毘登が、突然彼女の口の前に腕を出してきて、話をやめさせる。
「炊屋姫様、今稚沙がいっていたのですが。今回狙われるのは寺院のみ。なのでまだ狙われてない寺院を、見張ってみられては良いかと」
「まぁ、実は私達も同じことを考えていました。それならどこの寺院の可能性が高いかも分かる?」
「はい、もちろんです!」
(え、椋毘登は場所も分かったの?)
稚沙もさすがにそこまでは考えが及んでおらず、彼の気転の良さに思わず驚嘆する。どうしてこうも彼は頭が良いのだろう。
そんな彼女の関心の眼差しなど気にすることなく、椋毘登は続けて厩戸皇子の方に目を向けて話した。
「厩戸皇子、あなたも恐らく勘づかれているのではないですか?次はあなたの寺院が」
稚沙も椋毘登の一言で、その意味を理解する。それだとこの地域で考えられる寺院は1つのみである。
(そうか、この状況なら1番怪しいのはあそこだわ)
「まぁ、寺院まで当てられるとは、椋毘登は本当に賢いわね」
炊屋姫は思わず「クスクス」と笑って見せる。どうやら彼女らも同じことを考えていたのだろう。
そしてこの場にいる皆の脳裏に、一つの寺院が浮かび上がる。ここなら絶対に狙われるはずの場所を。
(今この飛鳥で狙われる可能性が高いのは......それは恐らく厩戸皇子の斑鳩寺)
今はちょうど夕暮れ時で、宮の人もだいぶ少なくなってきており、人とぶつかる心配もなかった。
(今が夕暮れでちょっと助かったかも)
そして彼女は小墾田宮の一番奥にたたずんでいる、炊屋姫の大殿の側までやってきた。
すると大殿の前には誰かが1人で腕を組んで立っている姿が見える。その人物は何やら大殿の方をじっーと見つめているようで、建物の中にいる誰かを待っているのだろうか。
(あれ、ひょっとして、あれは椋毘登だわ)
彼は相変わらず、青の色染めの綺麗な衣装をよそおい、腰にはたいそう立派そうな刀を携えていた。彼の年齢でこれほどの刀を持てるのは、やはり彼がそれ相応の刀の使い手だからなのだろう。
稚沙は大殿の前までやってくると、何故かその場にいる椋毘登にふと声を掛ける。
「椋毘登、あなたも来ていたの?」
椋毘登はふと振り返って稚沙の姿を見るなり、少し目を細め、肩の力を抜いてから、平然とした様子で彼女に答える。
「あぁ、稚沙か。俺は馬子の叔父上の付き添いだ。それで部屋の中での話が終わるまで待っているんだ」
彼は蘇我馬子の護衛なので、基本的に他の仕事がない時は、馬子によく付き添っている。
「ねぇ、椋毘登のことだから、最近起こっている事件のことは知ってるんでしょう?」
「あぁ、もちろんさ。今叔父上達はその件で話をしたいる最中だからね」
椋毘登はそういって再度大殿の方に目を向ける。彼もこのことの重要性を理解しているのだろう。今日は心なしか少し顔を厳しくさせている。
(椋毘登も、やっぱり気になるのね)
「ねぇ、椋毘登。その件で私一つ思いついたことがあるの」
「思いついただと?」
「うん、今回狙われるのは寺院だけだわ。つまりそれ以外は全く狙われれない」
「まぁ、確かにそうだな」
「だがら、次に狙われるのはまだ被害が出てない寺院になると思うの」
椋毘登もそれを聞くなり、彼女の意図していることの意味を理解したようで、急にハッとした様子を見せる。
「そうか、なら次に狙われそうな寺院に先回りして、見張っていれば......」
「そしたら事件の真相が分かるって訳よ!」
稚沙がそう答えたちょうどその時、いきなり大殿の中から炊屋姫があらわれた。そしてその後には蘇我馬子と厩戸皇子が続いて出てくる。まさに今話し合いが終わったようだ。
「何だ、椋毘登だけではなかったのか」
「あら、稚沙、あなたも来ていたの?」
炊屋姫と馬子は、てっきり外にいるのは椋毘登だけだと思っていたようで、いきなりその場にいた稚沙に少し驚いている。
「か、炊屋姫様!実は今回の事件について思いついた事がありまして!!」
稚沙がひどく興奮気味にして話をしようとするも、横にいる椋毘登が、突然彼女の口の前に腕を出してきて、話をやめさせる。
「炊屋姫様、今稚沙がいっていたのですが。今回狙われるのは寺院のみ。なのでまだ狙われてない寺院を、見張ってみられては良いかと」
「まぁ、実は私達も同じことを考えていました。それならどこの寺院の可能性が高いかも分かる?」
「はい、もちろんです!」
(え、椋毘登は場所も分かったの?)
稚沙もさすがにそこまでは考えが及んでおらず、彼の気転の良さに思わず驚嘆する。どうしてこうも彼は頭が良いのだろう。
そんな彼女の関心の眼差しなど気にすることなく、椋毘登は続けて厩戸皇子の方に目を向けて話した。
「厩戸皇子、あなたも恐らく勘づかれているのではないですか?次はあなたの寺院が」
稚沙も椋毘登の一言で、その意味を理解する。それだとこの地域で考えられる寺院は1つのみである。
(そうか、この状況なら1番怪しいのはあそこだわ)
「まぁ、寺院まで当てられるとは、椋毘登は本当に賢いわね」
炊屋姫は思わず「クスクス」と笑って見せる。どうやら彼女らも同じことを考えていたのだろう。
そしてこの場にいる皆の脳裏に、一つの寺院が浮かび上がる。ここなら絶対に狙われるはずの場所を。
(今この飛鳥で狙われる可能性が高いのは......それは恐らく厩戸皇子の斑鳩寺)