夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
斑鳩寺にて
それから斑鳩寺への対応が急ぎ取られた。
まずは寺院のまわりを強化するため、中門の前、回廊の外、金堂の後ろにそれぞれ人をおく。
その他は伽藍の外の林の中に身を隠し、また近くの建物の中にも見張りを忍ばせた。そして何かあればつぶさに知らせるよう指示が出されている。
そして今回は犯人と、事件の真相を知るのが主なため、出来るだけ目立たない行動が強いられる。
そのため見張りの者たちは、皆がひっそりと息をひそめ、慎重なおもむきで、それぞれの持ち場にたたずんでいた。
だがそんな斑鳩寺の光景を、少し離れた所から1人眺めている者がいる。それは先日稚沙が出会った中臣御食子だった。
「へえーどんな騒動になってるかと思って、見にきたけど、中々の力の入れようだな」
彼は大きな木が何本も生えている場所の後ろからひっそりと顔をのぞかせて、辺りの様子を注意深く監察していた。
(今回中臣が占なったとはいっているが、果たしてこの事件はどうなるんだ)
彼がそんなことを1人で考えていると、どこからか誰かの少し怒鳴ったような声が聞こえてきた。
「こんな状況下で、一体誰の声なんだ?」
御食子はその声がふと気になり、伽藍の目立たない所までひっそりと近づいていった。そして壁に体を潜ませて、自身の気配を消すようにして、その相手の声に耳を傾ける。
すると伽藍の前では、青年と少女の2人組が何やらいい争いをしている。彼らは周りの様子など特に気にとめることなく、互いに檄を飛ばしあっている。
「おい、稚沙!何でお前が斑鳩寺にきてるんだよ!」
「今回は額田部も協力するってことになってるから、休みを取ってきてみたの。斑鳩寺も一度見てみたかったし。それに椋毘登だってきてるじゃない」
「俺は、いざという時に厩戸皇子達を守る為にいる。いわば護衛だ!お前も今回の件は首を突っ込むなって、蝦夷からもいわれてたんだろ?」
「う、それはそうだけど......でも、やっぱりどうも気になって」
「とにかくお前はとっとと宮に戻ってろ!!」
「そ、そんな〜」
とまぁ、2人はそんないい争いをしている様子だった。寺院の関わりの者もその場をちらほら行き行きしてるが、彼らはわりと目立っている風に見えた。
御食子には、そんな2人の会話は少しうざったく思えた。正直、喧嘩など他の所でやって貰いたい。
(何なんだあの2人は......どちらも見張の邪魔になっていないか?)
彼はふと少女側の方に目を向ける。すると相手は、どうやら自身が以前に小墾田宮で見かけた子のようだ。
(あの女官の子を、まさかこんな所で見かけるなんて......)
そんな驚いた局面でいた時である。ふと彼の元に1人の青年がやってきた。相手は20代後半ぐらいの従者のようで、側まで近寄るとそっと彼の耳に語りかける。
「御食子様、とりあえずこの辺りの様子は大方確認出来ました。なのでそろそろお戻りになさいませんか?」
「うーん、そうだな。ここにいても退屈なだけだし、それに特に何も変わったことはなさそうだ」
御食子はあっさりそういうと、思わず「ふぁー」とあくびをしてみせる。ずっと息を潜めているのも何かと疲れるようだ。
「犯人探しはここの者たちに任せておけば良いでしょう。我々は様子を見るだけで......」
「まぁ、それはそうだ」
まだ日も高く、異変が起きるふうでもない。
そして彼はその男を引き連れて、その場を離れることにした。
(とりあえずあの稚沙って子は、また今度小墾田宮に行ったら話しかけてみようかな。
それと相手のやつは厩戸皇子の護衛をするとかいっていたけど、どうせどこかの豪族の息子が形ばかりの護衛なんだろう)
まずは寺院のまわりを強化するため、中門の前、回廊の外、金堂の後ろにそれぞれ人をおく。
その他は伽藍の外の林の中に身を隠し、また近くの建物の中にも見張りを忍ばせた。そして何かあればつぶさに知らせるよう指示が出されている。
そして今回は犯人と、事件の真相を知るのが主なため、出来るだけ目立たない行動が強いられる。
そのため見張りの者たちは、皆がひっそりと息をひそめ、慎重なおもむきで、それぞれの持ち場にたたずんでいた。
だがそんな斑鳩寺の光景を、少し離れた所から1人眺めている者がいる。それは先日稚沙が出会った中臣御食子だった。
「へえーどんな騒動になってるかと思って、見にきたけど、中々の力の入れようだな」
彼は大きな木が何本も生えている場所の後ろからひっそりと顔をのぞかせて、辺りの様子を注意深く監察していた。
(今回中臣が占なったとはいっているが、果たしてこの事件はどうなるんだ)
彼がそんなことを1人で考えていると、どこからか誰かの少し怒鳴ったような声が聞こえてきた。
「こんな状況下で、一体誰の声なんだ?」
御食子はその声がふと気になり、伽藍の目立たない所までひっそりと近づいていった。そして壁に体を潜ませて、自身の気配を消すようにして、その相手の声に耳を傾ける。
すると伽藍の前では、青年と少女の2人組が何やらいい争いをしている。彼らは周りの様子など特に気にとめることなく、互いに檄を飛ばしあっている。
「おい、稚沙!何でお前が斑鳩寺にきてるんだよ!」
「今回は額田部も協力するってことになってるから、休みを取ってきてみたの。斑鳩寺も一度見てみたかったし。それに椋毘登だってきてるじゃない」
「俺は、いざという時に厩戸皇子達を守る為にいる。いわば護衛だ!お前も今回の件は首を突っ込むなって、蝦夷からもいわれてたんだろ?」
「う、それはそうだけど......でも、やっぱりどうも気になって」
「とにかくお前はとっとと宮に戻ってろ!!」
「そ、そんな〜」
とまぁ、2人はそんないい争いをしている様子だった。寺院の関わりの者もその場をちらほら行き行きしてるが、彼らはわりと目立っている風に見えた。
御食子には、そんな2人の会話は少しうざったく思えた。正直、喧嘩など他の所でやって貰いたい。
(何なんだあの2人は......どちらも見張の邪魔になっていないか?)
彼はふと少女側の方に目を向ける。すると相手は、どうやら自身が以前に小墾田宮で見かけた子のようだ。
(あの女官の子を、まさかこんな所で見かけるなんて......)
そんな驚いた局面でいた時である。ふと彼の元に1人の青年がやってきた。相手は20代後半ぐらいの従者のようで、側まで近寄るとそっと彼の耳に語りかける。
「御食子様、とりあえずこの辺りの様子は大方確認出来ました。なのでそろそろお戻りになさいませんか?」
「うーん、そうだな。ここにいても退屈なだけだし、それに特に何も変わったことはなさそうだ」
御食子はあっさりそういうと、思わず「ふぁー」とあくびをしてみせる。ずっと息を潜めているのも何かと疲れるようだ。
「犯人探しはここの者たちに任せておけば良いでしょう。我々は様子を見るだけで......」
「まぁ、それはそうだ」
まだ日も高く、異変が起きるふうでもない。
そして彼はその男を引き連れて、その場を離れることにした。
(とりあえずあの稚沙って子は、また今度小墾田宮に行ったら話しかけてみようかな。
それと相手のやつは厩戸皇子の護衛をするとかいっていたけど、どうせどこかの豪族の息子が形ばかりの護衛なんだろう)