悪役令嬢は最後に微笑む
このまま持ち主の元に戻らないのは可哀想と思った私は、役所に届けて持ち主が見つかるまで預かってもらおうと足を動かした。
でも巾着袋は持ち主を上手く引き寄せてくれたようだ。
前世では見慣れているはずの黒髪の青年だというのに、吸い込まれそうになるのは綺麗な顔立ちのせいか。
心臓が一瞬止まりそうになるほどの美貌の青年は、周囲を見渡して通り過ぎる人に声を掛けては必死に何かを探している。黒髪が物珍しいのもあるのか、周囲の人は青年を無視して通り過ぎていってしまう。
「あのっ……!」
もしやと思って勢いのまま声を掛けると、こちらに気付いた青年が大きく目を見開き、すぐさま嬉しそうな朗らかな笑みを浮かべてこちらにやって来た。
距離が近づくにつれて心臓が煩く跳ねるように鳴り響くのを、必死に抑えようとしている私の姿がはっきりと黒真珠のように綺麗な青年の瞳に映っている。
「ありがとう。ずっと――ずっと、探していたんだ」
凛とした声に鼓膜が刺激されて鼓動はより早くなるのに、妙に心地良く感じてしまう。
どうぞと返す動きさえもぎこちないというのに、青年は優しい微笑みを浮かべて受け取ってくれた。
顔だけは良く整ったアーサーをいつも見ているというのに、どうしてこんなに狼狽えているんだろう……。