ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
櫂人さんが店にやって来た翌日。私は拓翔を連れて大きな公園までやって来た。
「ままぁ! たっくんごろごろー! ごろごろすゆー」
「あ、待って拓翔! 走ると転んじゃうよ」
公園に着いた途端走り出した拓翔に慌てて声をかける。自転車の籠から大きなカバンを引っ掴んですぐに追いかけた。
公園は桜の時期ということもあり、多くの人々でにぎわっていた。同じように遊具を楽しむ親子やお花見をする人、ランニングをしている人もいる。
ローラーすべり台へ一目散に駆けていく拓翔を見ながら、公園全体がよく見える木陰にレジャーシートを広げ、持ってきた保冷バッグや水筒で角を押さえる。貴重品が入ったポーチだけを肩から斜めにかけて、私もすべり台へと駆け寄った。
「ままー!」
ちょうど順番の来た拓翔が、上から大きく手を振る。手を振り返すと、ゴロゴロと音を立ててすべりだす。私はそれをすかさずスマホで撮影した。息子の成長を撮りためることが、ここ数年の唯一の趣味にして癒しなのである。
一眼レフがあればこういうときもっと拓翔の表情をしっかり写すことができるのに。
本格的なカメラが欲しいと思うけれど、今の私にそんな余裕はない。店のローン返済と日々の生活費で精いっぱいだ。
以前の仕事で貯めたお金は、できるだけ拓翔の将来のために取っておきたい。
途中で数えるのをやめてしまうくらいローラーすべり台を満喫した後は、ほかの遊具や持ってきたゴムボールで一緒に遊び、またたく間に小一時間が過ぎる。
「拓翔、お弁当にしようか」
「おべんちょー!」
ふたりでレジャーシートまで戻り、バッグからお弁当をふたつ取り出した。小さな方には拓翔お気に入りのパンダのイラストが描かれている。
拓翔が通っている保育園には給食があるため、お弁当を作る機会はほとんどない。だからこういうときくらいは、彼専用のお弁当箱に好きなものだけを詰めてあげたいと思ってしまう。
「はい、拓翔の分」
「あーと!」
除菌シートでしっかりと拭いてあげた手に小さなお弁当箱を渡し、ふたりで「いただきます」をした。
「たこしゃーん」
拓翔がフォークに刺したウィンナーを嬉しそうこちらに向ける。タコやカニのウィンナー以外に、ハート形の卵焼きや花型に型抜きをした人参も入っている。メニューは拓翔の好物はもちろん、フォークで食べやすくて見た目も楽しめるように工夫した。