ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 空は世界中どこへでもつながっている。だから彼のことを思い出すときはいつも空を見上げていた。拓翔にも空を見て〝パパ〟のことを思ってほしいと、そう言ってしまったのだ。

 だけど彼はきっと誤解している。拓翔の父親は亡くなったのだと。案の定彼は眉を寄せて口を開いた。

「そうか……大変だったんだな……」

 そう言った彼のつらそうな表情に良心が痛んだけれど、私は彼の誤解を敢えて解くことをしなかった。

「じゃあ次の休み、俺と一緒にパンダに会いに行かないか?」
「えっ!」
「ぱんらしゃん!」

 驚きの声を上げた私の隣で拓翔が目を輝かせた。

「ちょうど手元にチケットがあるんだ」
「いや、あの……次の日曜はお弁当の注文が入っていて……」

 いくらなんでも拓翔を連れて彼と出かけるなんて、心臓がいくつあっても足りそうにない。そう思って行楽弁当の話をしたのに、彼は引き下がらなかった。

「じゃあ、さやかが大丈夫な日まで待つよ。俺の方は日曜日ならいつでも大丈夫だから」
「え、いや……ちょっと忙しくて……」

 なんと言って断ろうかとほんの一拍開けた間に、お腹のあたりの服をきゅっと引っ張られた。下を向くとどんぐりのような目が私を見上げている。

「たっくんのぱんらしゃん……」

 つぶらな瞳をうるうるさせて悲しそうに言われた途端、私はぐっと言葉をのみ込んだ。我ながら息子に甘いなと自嘲しながらため息とともに口を開く。

「おじい――店長に予定を聞いてからでいいですか?」

 私がそう答えると彼は瞳をぱぁっと輝かせた。

「もちろん! 無理のないときで俺は全然かまわないから」

 その言葉に私がうなずくと、彼は拓翔にしっかりと目線を合わせながら言う。

「動物園はママのお仕事がお休みのときに行こうな。パンダさんはちゃんとたっくんのことをいい子に待っていてくれるよ? たっくんもできるかな?」
「あい!」
「そうか。とってもいい子だな、たっくんは」

 満面の笑みを浮かべた櫂人さんが拓翔の頭をわしわしと撫でる。それを目にした途端、瞬時に喉元に熱い塊がこみ上げてきて、それを飲み下すのに苦労する。

 必死に気持ちを落ち着けようとしているうちに、気づいたら連絡先の交換までが手際よく済まされていた。



< 24 / 93 >

この作品をシェア

pagetop