ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない

「わっ、すごい人……!」

 入場門からすでに多くの人でにぎわっていたけれど、中でもパンダ舎は一番人気で、入る前から行列だった。

「すみません、荷物まで持たせてしまって……あれこれ持ってきたせいですごく重たいのに……」

 車から拓翔を下ろしている間に、櫂人さんが荷物をラゲッジスペースから出してくれて、そのまま持ってくれているのだ。自分で持つと何度言っても彼は頑として譲らず、申し訳ない気持ちになる。ただでさえ子連れの出かけは荷物が多いのに、今日はそれに輪をかけて重たい。

「これくらい大したことないよ。それより、空いた手でしっかり拓翔君の手をつないであげた方がいい。かなりの人だから、迷子にならないよう気をつけてあげなきゃなぁ」
「はい」

 彼の言う通りだとうなずきながら心に留めおく。行楽シーズンということもあって園内はどこもかしこもにぎわっている。拓翔は興味があるものを見つけたらすぐにそっちへ行こうとするので、いっときも目が離せないのだ。

 列は順調に進み、さほど待たずに獣舎の中に入ることができた。

「ぱんらしゃーん!」

 よく見えるようにと拓翔を抱き上げたけれど、いかんせんかなりの人だかり。ガラス越しにパンダを見ようと集まっている人の壁で、背の低い私に抱えられてもよく見えないらしく拓翔がぐずりはじめる。
 すると隣から伸びてきた腕がひょいと拓翔を抱き上げた。

「これで見えるかな?」
「ぱんらしゃん!」

 櫂人さんの抱っこを嫌がることなく、拓翔はむしろ上機嫌。出会ったばかりの男性に抱かれて、嫌がらなかったことに驚いた。パンダ効果が絶大なのか、それとも血のつながった親子だからなのか。

 にこにこ顔でパンダを見ているふたりを見ながら、私はまたしても不意に泣き出しそうになった。
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