ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 たとえ拓翔を祖父に預けることができたとしても、櫂人さんとふたりでパーティに行くのはまた別問題だ。

 もうこれ以上かかわらない方がいい。
 だってこれ以上一緒にいたら、私はすべてを打ち明けてしまいたくなる。甘えてはダメ。

 今度こそきちんと断ろう。そう思った矢先、祖父が私の肩をぽんと叩いた。

『せっかくだ、(うち)の宣伝もしてきておくれ。チャンスはどこに転がっているか分らんからな』

 我が祖父ながら驚きの商魂たくましさに呆気に取られているうち、気づいたらパーティに同伴する流れができあがっていた。


「強引に誘った俺が言うのもどうかと思うけど、行楽弁当の方は大丈夫だったの?」
「あ、はい。今日はもともと注文を受けていなかったので」

 櫂人さんが心配してくれたのは、以前私が『しばらくは定休日も行楽弁当の注文で忙しい』と話したからだろう。
 町内会の集まりでは仕出しを注文することになっていて、今回は有名な老舗料亭のものだそうだ。祖父も食べるのを楽しみにしていると言っていた。

「なるほど。俺はラッキーだったということだな」
「え?」
「弁当の注文が入っていたら、きっとおじいさんの後押しはもらえなかっただろうから」

 確かにそれは一理ある。
 櫂人さんには店長が祖父だということを打ち明けた。つき合っているときには複雑な家庭環境を話してはいたが、おかもとのことまでは話していなかった。

 祖父がなぜそんなことを言い出したのかいまいち腑に落ちない。彼と私の複雑な関係を知らないとはいえ、今までお客さんからの誘いを後押しするどころか、口を挟むことすらなかったのに。

 となると、祖父の目的はやっぱりおかもとの販路拡大なのだろう。
 おかもとの経営状態は、私が考えているより何倍も大変なのかもしれない。小さな弁当屋の上に借金も抱えているのだ。

 もう少し私に手伝えることはないかな。事務や雑務は請けおっているけれど、仕入れや調理だけでなく経理も祖父頼み。私にできるのは、メニュー考案と営業に力を入れることくらいだ。
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