ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 彼が私の顔をすくい上げ、唇を重ねる。
 口腔に侵入してきた舌に絡め取られる。濃厚な口づけだけど、さっきのものとは全く違う。焦りや獰猛さが消えて隅々までじっくり丹念に撫でられる。

 彼にすべてをさらけ出す覚悟を決めた。『ありのままを教えて』と言っておきながら、私の方がそれを隠すのはフェアじゃない。羞恥心は消えないけれど、嫌なことはなにもないと伝えたかった。

 スカートとショーツが取りさられ、一糸まとわぬ姿になる。彼は私の下腹部を見て息をのんだ。

「この傷は……」

 覚悟はしていたが、気持ち悪いと拒否されたらどうしようと不安がよぎる。けれどすべてを包み隠さず見せると決めたのは自分だ。

「出産のときに……」
「もしかして、帝王切開だったのか?」
「はい。分娩中に拓翔の心拍が低下して……それで、急遽帝王切開に」

 ぎゅっと胸が苦しくなった。あのときは、赤ちゃんにもしものことがあったらどうしようと、泣き叫びたいくらい不安だった。『櫂人さん!』と何度も心の中で呼んだことを思い出し、目尻に涙がにじむ。

 突然、強く抱き締められた。

「すまなかった! そんなときにそばについていられなかったなんて。どんなに不安でつらい思いをしたことか」

 その言葉にあのときの自分が報われた気がした。
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