ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「いいの。すべて自分で決めたことです。後悔はしていません。それに今あの子は元気だから」

 彼は一瞬まぶしげに目をすがめると、私の傷跡に口づけた。長く唇を押し当てるだけのそれは厳かで、まるで誓いを立てているかのようだ。じわりと胸が熱くなって、涙がにじむ。

「この傷に誓う。今度こそきみを、きみと拓翔君を一生守ると。二度と離さない、愛している。さやか」
「私もっ、私も今度こそなにがあっても離れません。愛しています、櫂人さん」

 もう一度固く抱き合って、深い口づけを交わしながらひとつになった。

 思わず目を固くつむって、歯を食いしばる。

 痛くはないが、熱い。
 その感覚に覚えがあった。

『怖がらないで。目を開けて、俺を見て』

 そんな声が聞こえた気がして、ゆっくりとまぶたを持ち上げる。そこには苦しげに眉を寄せながらも、劣情をたたえた瞳で私を見つめる彼がいた。

 シーツを握っていた手をゆっくりと開き、彼の頬に手を伸ばす。

「そんな顔、しないで。大丈夫、だから」

 彼は私に痛みを与えないように必死にがまんしてくれている。

 たしかに私の体はあのときとほとんど変わらない。執拗な愛撫にぐずぐずに蕩かされ、指先にすら力が入らないのに、それでも体の内部をこじ開けられるような感覚に、本能的に身構えてしまう。

 けれど、未知のことに不安と戸惑いしかなかったあのときの私ではない。
 彼の頬を指でむにゅっと摘んだら、彼が目を見張った。思わずふふっと笑みがこぼれる。

「ほら、大丈夫。夢でもまぼろしでもないでしょう? 私にも教えてください。あなたが本物だって」

 彼の頬を離し、その手を彼の背中に回した。ぎゅっとしがみつくように力を込め、耳に顔を近づける。

「痛くてもいいの。その方が夢じゃないってわかるもの」

 一瞬泣きだしそうに顔をゆがめた櫂人さんは、私を強く抱き締め、「愛している」とささやいた。

 触れ合える喜びを全身で感じながら彼に身をゆだねる。
 熱に浮かされたように彼の甘く激しい愛に溺れていった。

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