ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 現れたのは叔父の太一だった。約三年ぶりに見る叔父は、以前よりも顔がややほっそりとしているものの、それ以外に変わったところはない。

 どうしてここに。いったい今までどうしていたの? 無事でよかった。
 様々な気持ちが入り乱れてすぐには言葉が出て来ず、代わりに涙があふれそうになる。

 きっと祖父も同じ気持ちだろうと顔を向けたと同時に祖父が声を上げる。

「生きとったら悪いか、この放蕩バカ息子が!」

 怒鳴ったせいで傷口に響いたのだろう。祖父は「あいたたっ」と顔をしかめる。

「おまえの心配などなんの足しにもならんわ。だれだ、こんな阿呆を呼んだのは」

 せっかく再会したというのになぜか一瞬即発の事態だ。以前ならいつものことだからとのんきに構えていているのだが、さすがにこのまま叔父がまたいなくなってしまったらと焦る。どうやってふたりの間を取り持とうかと考えていると、櫂人さんが口を開いた。

「太一さんへは私が連絡をしました」
「え!」

 いったいどうやって? 尋ねようとしたら叔父が「おまえか」と忌まわしげにつぶやく。突然電話がかかってきて『お父様が倒れて病院へ運ばれました』と言われ、搬送先を伝えられたそうだ。

 決して間違ってはいないが、その後が抜けている。櫂人さんをちらりと見ると、平然と微笑みながら「はい」と言った。

「他人が余計なことを」
「だましやがって」

 叔父と祖父から同時に聞こえた声にカチンときた。叔父と再会できたのも、祖父が大事に至らずに済んだのも櫂人さんのおかげなのだ。それなのに彼を悪者にするなんてひどい。怒りが沸々とこみ上げる。

「ふたりともいい加減に――」
「けんか、めーよっ!」

 その場の視線がいっせいに櫂人さんの腕の中に集まった。拓翔がつぶらな瞳に涙をいっぱいに溜めている。

 途端、祖父は「じーじはけんかなんかしとらんぞぉ」と目尻を下げ、叔父は「さやかにそっくりだ!」と歓喜した。

「一度ご家族三人でじっくり話をされてはどうでしょう」

 櫂人さんはそう言って拓翔を連れ出してくれた。

 祖父と叔父と三人が顔を合わせるのは三年ぶりだ。多少不安はあったものの、圧倒的な懐かしさと安心感で胸がいっぱいになる。

 三人になった突端、叔父が突然土下座した。

「親父、さやか、すまなかった!」
「太一君⁉」

 目を見張った私に、叔父はさらに驚くべきことを口にした。

「急にいなくなって二人に散々迷惑をかけたことを心から謝る。だけど、それには事情があったんだ」
「どういうことだ」

 祖父の厳しい声に、叔父がゆっくりと顔を上げた。

「二人に紹介したい人がいる」

 そう言って叔父が続けた言葉に、祖父も私もしばらく二の句が継げないくらいに驚いた。



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