紅葉踏み分け、君思ふ

わたしの本気は・・・見せないよ?

やるならさっさとやれ、という投げやりな土方さんの言葉に一般隊士のほぼ全員が立ち上がって剣道場の方へ向かう。大きな人の波の後、残っていた隊士はわたしの保護者たち。それ以外には二人しか残っていなかった。

「おや?君たちは行かないのか?」

ポツン、と残っている二人が気になったのか、近藤さんが二人に問いかける。

「はい・・・彼女,絶対ボクよりも強いもん。そんな無謀な勝負、するわけないじゃん。それに、別にボクは彼女に悪い感情を持ってないし」

そう答えたのはふんわりとした雰囲気の男子。長い髪を下の方でまとめて前にくぐっている。ほら、あれ、アニメとかで病気のお母さんが出てくる時のお母さんの髪形みたいなの。

「然り。俺も無謀な勝負はやりたくない」

そう答えたのはがっしりとした体型の男。肩幅が大きくてお相撲さん、って言われてもあんまり違和感がない感じ。

「・・・ほぉ、二人、名前は?」

「ボクは安藤早太郎」

「島田魁」

(えっと、安藤早太郎って、あの人だよね?東大寺の通し矢で日本記録樹立した人。で、島田魁は、えっと・・・土方さん大好きな人でしょ?戊辰戦争が終わっても生き残って隊士録とか色々資料作ってた人)

こんな人だったんだ・・・と思っていると食べ終わったのか、安藤さんが立ち上がってわたしの方へくる。

「えっと、かえでちゃん、だったよね?ボクは安藤早太郎。よろしくね」

ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべる安藤さんにわたしも笑顔で応じる。わたしのことを悪く思わななかった数少ないい人だ。仲良くしておきたい。

「よろしくお願いします、安藤さん」

そういうと彼はフルフルと顔を振って、

「敬語はなしです!ボクの方が弱いのに、かえでちゃんに敬語を使われる意味がわからない」

「えっと、じゃあ、安藤くん?」

「ん、今はそれでいいよ。じゃあ、ボク、先に剣道場行ってるね。戦うつもりはないけど、どんな試合になるか気になるし」

「俺も失礼する」

そういって島田さんも大広間から出ていく。多分、安藤くんと同じように剣道場に行くのだろう。

わたしの正体を知ってるメンバーのみが残った大広間。最初に声を出したのは左之さん。

「おい、かえで、大丈夫か?あいつら、本気だぞ?」

そういう左之さんに笑顔で返す。

「ふふ、もちろん大丈夫。わたしは多分・・・本気を出さすにおわっちゃうよ。わたしを怒らせたとこ、徹底的に後悔させないと」

「おい、総司。許可しちまったけど本当に、大丈夫なんだろうな?」

土方さんが胃を抑えながら総司さんに問う。

「もちろん!かえでちゃん、下手したらぼくよりも強いですし。いつもあんなに優しいかえでちゃんがあんなに怒っているんですよ?ぼく、かえでちゃんの味方だけど、ちょっと隊士たちに同情しちゃいます」

その問いに総司さんペロッと舌を出しながら答えた。
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