見つけたダイヤは最後の恋~溺愛は永遠の恋人だけ~
久しぶりだなぁ。
前に来たのが5月の終わり…

今はもう8月に入ったんだもんね。
丸2か月のブランクは大きそうだな…

家でストレッチくらいはしていたものの、ちゃんと身体を動かしてなかったから今日は軽めにしよう。



…九十九さん、いるかな…


離婚した、って言ったら驚くかな?

頑張れ、って言ってくれたもんね。
私、頑張ったよ。
頑張って、戦ってきた。


九十九さん、何て言ってくれるかな…

「頑張ったな!」って言ってくれるかな…


そう期待して受付を通ると、インストラクターの梨本さんに声をかけられた。

「あっ乃愛ちゃんだ!久しぶりだねっ!」

言いながらひらひらと手を振ってくれた人懐っこい笑顔の梨本さんは、ここのクラブのマスコットキャラクターみたいな存在。

大きめのウェーブのかかった茶髪に中性的で優しい顔立ちと、見事な筋肉ムキムキの身体は何だかアンマッチな感じがするんだけど、そこがまたいいと言う女性が多いんだよね。


「梨本さん、お久しぶりです」
その人懐っこい笑顔につられて私も笑顔になっちゃう。

「どしたん?ホント久しぶりだけど、何か忙しかったの?」

「九十九さんから何も聞いてません?」

「うん、何も?」

「そうですか…あ、九十九さんて今日はいらっしゃいますか?」

「あー、つっくんねぇ、また横浜に異動したんだよねー」

「えっ…そう、なんですか…」

「何、どした?つっくんに用があったん?」

「あ、いえ……あっそうだ。変更手続きをお願いしたいんですけど」

「変更?住所とか?」

「はい、住所の変更を。あっ名前もだ」
そうだった、旧姓にしなきゃだった。

「名前…」
梨本さんがポツ、と呟いた。

「梨本さん?」

「あ、ごめんごめん。じゃあ…この用紙に書いてくれる?」

手元にペラリと1枚の紙が置かれた。


「はい、こことここでいいですか?」

「うん、そしたらこっちで変更やっとくね。カードは新しいの発行するから、帰りにまた寄ってくれる?」

「はい、お願いします」


「じゃ、今日も頑張ってー」

またひらひらと手を振ってくれた梨本さんにペコリとお辞儀をして、更衣室へ向かった。




九十九さんが…いなくなっちゃった…


急に…目の前が暗くなった。


…ちゃんと報告したかったな…
私、頑張りました!って…
離婚しました、って…
会って、言いたかったのに…


会いたかったのに…


さっきまでの前向きな気持ちが嘘のようにしゅるしゅると失せてしまった。

…でも来たからには頑張らなきゃだよね。

いつか九十九さんに会った時に、だらしない身体になったなんて思われたくないもん…
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