無口な彼の素顔〜職人技に隠された秘密〜
「私にこの汚いスリッパを履けって?」
「汚いって……」

 優は、自分の周りにはいないプライドの高い女性を前に、どうしていいかわからない。だが、ピンヒールで中に入らせるわけにはいかない。

 そこへ――。

「どうした?」

 瑛斗が騒ぎを聞きつけ中から出て来た。

「専務~、お疲れ様です~」
「……」

 瑛斗は、ややこしい人物の登場に言葉が出ない。
 
「専務に急ぎの書類をお届けに来たんですが、その子が中に入れてくれないんです」
「はい!?」

 先ほどの優に対するしゃべり方と全く違う女性に驚く。猫撫で声はどこから出るのだろうとある意味感心する。
 
「しかもこんな汚いスリッパに履き替えろなんて……」

 そこで瑛斗は初めて女性の足元を見た。

「てめぇ、まさかその靴で中に入ろうとしたのか?」
「へ!?」
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