【一気読み改訂版】黒煙のレクイエム
第70話
そして8月30日にあいつの家の家庭崩壊が始まった。

いよいよ、つもりにつもったうらみをはらすときが来た。

8月30日の午後2時半過ぎにあいつの家で事件が発生した。

家の中にいたサナが家に侵入してきたゾンビの覆面をかぶった男4人に集団でレイプされたあと殺された。

それから2時間後であった。

赤色の派手なシャツとボロボロのジーンズ姿でひどく酒に酔ったひろゆきが帰宅した。

サナが恥ずかしい姿で亡くなっているのを見たひろゆきは、震える声でサナを呼んだ。

「サナ…サナ…サナ…サナ…」

ひろゆきは何度もサナを呼んだが、呼び掛けに反応しなかった。

ひろゆきは、2~3日前から段ボール工場の仕事がうまく行っていないことと職場の人間関係がこじれたことを理由に無断欠勤した。

そのあげくに、職場で暴動を起こした。

ひろゆきが気に入らない若手の男性従業員をグーで思い切り殴って片方の目に大ケガを追わせるなど…大規模な被害を与えた。

自暴自棄におちいったひろゆきは、飯田市内《しない》で暮らしている愛人《おんな》の家に入り浸りになった。

同じ頃であった。

教習所の現金を横領した容疑で長野県警《けんけい》が全国に特別手配をしたあいつが、フィリピンパブのホステスの女と一緒に中部国際空港にいた。

このあと、シンガポールへ行く航空機に乗って逃走すると言う情報が8月30日の正午過ぎに愛知県警の県警本部に伝わった。

愛知県警は、あいつが中部国際空港にいることを長野県警に急いで知らせた。

午後2時過ぎであった。

長野県警のパトカー8台がけたたましいサイレンを鳴らして中央自動車道〜東名高速を経由して名古屋都市高速〜伊勢湾岸道を経て中部国際空港へ向かった。

愛知・長野の両県警は、あいつを逮捕するために捜査員を合計300人を投入した。

午後4時半頃であった。

中部国際空港に長野県警の捜査員たちが到着した。

愛知県警からの説明によると、あいつはフィリピンパブのホステスと一緒に夜7時に出発するシンガポール行きのシンガポール航空の飛行機に乗って、国外へ出国する…

その後、シンガポールから中国東北部の吉林省の空港まで行って、北朝鮮へ向かう予定であった…

そうなる前に、あいつを逮捕しなければならない…

夕方6時半頃であった。

愛知・長野の両県警の捜査員たちが搭乗口に先回りをしてあいつを待ち伏せていた。

そして、搭乗口にあいつとフィリピンパブのホステスがやって来た。

「ひろつぐさん…ちょっとパスポートを見していただけますか?」
「はっ?」
「すみません…今日一日だけ出国を見合わせていただけますか?」
「何だよあんたらは一体!!」
「警察署の生活安全課にお母さまが来られていますよ…お母さまに一度お会いになられてから行かれた方がいいのでは…」
「お母さまは泣いていたよ…心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い…お母さまに会いに行こう。」
「何やオドレ!!ワーッ!!」

この時、あいつが内ポケットにしのばせていたサバイバルナイフを取り出したあと、ナイフを振り回して暴れだした。

「危ない!!オーイ!!大変だ!!ひろつぐがナイフを振り回して暴れだしたぞ!!」
「逃がすな!!」

ナイフを振り回して逃げているあいつは、愛知県警の刑事が持っていた拳銃で右肩を撃たれた。

(ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!)

その後、500メートル先で待ち構えていた刑事たちが倒れたあいつを取り囲んだ。

この時、捜査員たちはあいつの右腕にやけどのような跡を発見した。

あいつがコカインを大量に服用していたことが判明した。

「課長!!ひろつぐがコカインを大量に打っていました!!」
「どうします!?」
「逮捕しても心身喪失で刑事責任は問えません!!」
「よしわかった!!殺せ!!ひろつぐを殺せ!!」

(カチャッ!!カチャッ!!カチャッ!!)

刑事たちは、一斉に銃口をひろつぐに向けた。

「イヤだ!!死にたくない!!イヤだ!!」

あいつは、泣きながら命ごいをした。

刑事たちは、冷めた目付きであいつに銃口を向けた後、こう言うた。

「ハイジョする…」

(ガチャッ!!)

「イヤだ…死にたくない…助けてくれ…こずえ…こずえ…」

(ズダダダダダダダダダダ!!ズダダダダダダダダダダ!!ドキューン!!ドキューン!!ドキューン!!ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!ダダダダダダダダダダダダ!!)

あいつは、刑事たちが持っていた拳銃による集中発砲を受けた後、殺された。

その日の夜であった。

あいつが出入りしていた愛知県豊川市内にある暴力団事務所で愛知県警の捜査員による一斉家宅捜索が行われた。

あいつにコカインを提供したチンピラたち全員を次々と銃で射殺したあと、押収作業に入った。

奥の部屋から、大量のコカインが発見された。

あいつと一緒に国外へ逃亡しようとしたフィリピンパブのホステスの女も別の事件で逮捕状が出ていたので、その日のうちに逮捕された。

8月31日の昼前であった。

アタシは、あいつの家に一度戻った。

家に残っている着替えとメイク道具を全部取り出して紙袋に詰めていた。

その時に、義母が悲しげな表情で家に帰ってきた。

「こずえさん…」
「おかあさま…」
「こずえさん…こずえさんに…あやまりたいことがあるの…」
「あやまりたいこと!?」

アタシは、恐ろしい目付きで義母をにらみつけながら言うた。

「何よあんたは!!どんなにあやまってもアタシは許さないわよ!!」
「ひろゆきとひろつぐのことで…こずえさんにあやまりたいの…」
「イヤ!!拒否するわよ!!あんたの言葉はウソばかりだから信用できない!!アタシは、あんたらをのろい殺すわ!!」

アタシにどぎつい言葉を言わた義母は、声をあげて泣いていた。

アタシは、さいふとスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグと着替えとメイク道具がぎっしりと詰まっている紙袋を持って、家から出た。

それから数時間後であった。

アタシは、JR飯田駅に停車中豊橋行きの特急ワイドビュー伊那路に乗っていた。

出発時刻を待っている間、アタシはスマホを片手にイヤホンをつけた状態でユーチューブを見ていた。

その時であった。

あいつの家が黒煙を上げて炎上していた。

(カンカンカンカン…ウーウーウーウー…)

消防団の詰所から聞こえるハンショウの音と消防車のけたたましいサイレンの音が鳴り響いていたのを聞いたあいつは、急いで家の方に向かった。

あいつの家にて…

あいつの家は、恐ろしい黒煙をあげまして激しく燃えていた。

「早く火を消してくれ!!」
「燃え移ってしまうよ!!」
「何やってるのだよ!!」

現場付近は、住民の怒号と悲鳴が交錯していた。

やっと消防車が現場に到着した。

この時、ポンプが故障したので消火作業ができなくなった。

あいつは、現場から走り去ったあと1キロ離れた公園で泣き崩れた。

家が燃えてしまった…

大切な家族をなくした…

こずえに去られた…

サナが亡くなったので生きて行けない…

そして…

職場をクビになった…

その頃であった。

アタシが乗っている豊橋行きの特急ワイドビュー伊那路は、すでに飯田駅から離れていた。

あいつは、大切なものを全部なくした。

列車の中にいるアタシは、スマホのツイッターを開いて、短文を投稿した。

『ひろゆきは、アタシにきつい暴力をふるいつづけていたけん、大切なモノをなくしたのよ…ざまあみろ…』

アタシは、やさぐれ女として生きて行くことを決意した…

【第二部・おわり】
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