愛が芽生える刻　～リラの花のおまじない～
「毎晩、掃除してくれてたの？」
突然聞こえてきたエルマーの声にソフィアはとても驚いた。
「あぁ、ビックリした。驚かさないでよ。どうしてエルマーがここにいるの？」

以前と変わらないソフィアの口調にエルマーは安心する。
「たまたまだよ。君の姿を見かけたからついてきちゃった。」
「そうなの。ヨーゼフ様には私もお世話になったから、毎日綺麗でいてもらいたくて。係りの人がやってるんでしょうけど、私もやりたいから勝手にやってるの。」
「爺ちゃんも喜ぶよ。ありがとう。」
エルマーはふとソフィアの腕に目が行く。
ソフィアは腕まくりをしていたため、
細い腕が月明かりに照らされている。

その腕には何か所かあざが出来ていた。
「これはどうしたの？」
エルマーはソフィアの腕を取って、あざを確認した。
「なんでもないわ。」
ソフィアはエルマーの手を払って、腕を隠そうとする。
「なんでもなくて、こんなとこにあざなんて出来ないでしょ。誰にやられたの？」
エルマーの問いにソフィアは押し黙った。
言いたくても言うことが出来ないのだろう。

ガバッ。
エルマーはソフィアを抱きしめた。
「ごめん。俺のせいで辛い思いばっかりさせてごめん。ソフィアは何も悪くないのにさ。」
エルマーが優しく頭を撫でてやると、
それまでの我慢があふれ出したのか、
ソフィアはエルマーの胸の中でさめざめと涙を流した。
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