愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~

リラの花のおまじない

結局、返事が出来ないまま当日になってしまった。
机の上に置かれたエルマーからの手紙を見て、
ソフィアはため息をつく。
”あなたと一緒に舞踏会に行きたい。”という一文が
どうしても書けなかった。

エルマーと一緒に舞踏会に行くための
上等なドレスをソフィアは持っていない。
エルマーのことだから「なんでもいいんだよ」と言いそうだが、
王妃主催の舞踏会は国中の貴族が集まる大規模なものなのだ。
エルマーに恥をかかせるわけにはいかなかった。

万一実家に相談しても、新しくドレスを作ってもらう時間もない。
王妃付きの侍女の中で舞踏会に参加資格があるのはソフィアだけで、
みんなせっかくの機会だからと参加を進めてくれたが、
来ていくドレスがないからと断った。
自分のドレスから好きなのを選んでと王妃は言ってくれたし、
エミリアも当日のヘアアレンジを申し出てくれた。
みんなの優しさが泣きたいほど嬉しかった。

エルマーの手紙にはリラの花が添えられていた。
よく見ると花びらが5枚だ。
小さい頃、ラッキーライラックを探そうと一緒に遊んだ記憶がよみがえる。
ラッキーライラックというのは古くから伝わるおまじないで、
”5枚の花びらのライラックを見つけたら、黙って飲み込むと、「愛する人が永遠に心変わりしない」”
というものだ。
(もしこれを黙って飲み込んだら、エルマーは私のことをずっと愛してくれるかしら。)
ソフィアは薄暗い部屋の中でリラの花びらを飲み込んだ。
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