愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~
舞踏会が行われる大広間にソフィアが現れることはなかったが、
エルマーはいたって落ち着いていた。
話しかけてくる令嬢たちを笑顔でかわして、
エルマーは大広間を抜け出す。
ソフィアのいるところが分かっていたからだ。

ギギギっと扉を開けると、
予想通り、金髪の侍女の後ろ姿を見つける。
「やっぱりここにいたね。」
真冬だというのに温室はとても暖かい。
熱くなったエルマーは思わず上着を脱いだ。
「エルマーこそどうしてここにいるの?舞踏会はもう始まるじゃない。」
「誰かさんがお返事をくれないから、一人ぼっちで出席しないといけなくなってね。惨めだから抜けてきた。」
エルマーの視線を避けるようにソフィアは下を向く。

「お返事しなくてごめんなさい。でもどうしても書けなかったの。」
ポロポロと涙を流すソフィアにエルマーも動揺する。
「一緒に行こうって誘われてとても嬉しかった。だけど私は下級貴族の娘だし、公爵のあなたとはとても釣り合わない。あなたの隣に立てるような立派な服も宝石も持ってないし、あなたに恥をかかせてしまうわ。」
「そんなこと・・・俺が気にすると思う?その侍女服で来てくれたってかまわないのに。」
エルマーはしゃがみこんでソフィアと目線の高さを合わせる。
ソフィアは泣きはらして目が真っ赤だったが、堪らなく愛おしい。
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