政略結婚は純愛のように〜子育て編〜
その5 由梨のお願い
コーヒーとお茶が載ったお盆を手に由梨がキッチンから出てくると、リビングから「あうー」という可愛い声が聞こえてくる。
 
ソファで隆之に抱かれている沙羅だ。
 
隆之が、小さな足を愛おしそうに指でなでて、ご機嫌の彼女の表情を一瞬も見逃さないぞというように、優しい目で見つめている。

「コーヒーどうぞ」
 
センターテーブルにお盆を置いて由梨は隆之の隣に腰を下ろす。

「ふふふ、沙羅、お父さんに抱っこしてもらって嬉しいね」
 
沙羅に向かって声をかけると、彼女は手足をパタパタさせた。
 
隆之が微笑んだ。

「ありがとう。俺に抱かれるといつも沙羅はご機嫌だ」
 
そう言う彼も、彼女に負けず劣らずご機嫌だ。

「……もうすでにお父さんっ子だな」
 
なんて得意そうに言うものだから、由梨は思わず笑ってしまう。昨日届いた隆信からのメッセージに対抗しての言葉だろう。
 
くすくす笑いながら「そうですね」と答えると、彼は満足そうに頷いて、今度は沙羅の頬をくすぐるように指で触れる。
 
沙羅がまた「あっうー!」と可愛い声を出した。
 
久しぶりに夫婦の時間を過ごした夜から一夜明けた今日は、土曜日だ。隆之は、朝からずっと沙羅を抱いている。それこそ授乳中以外ずっとである。
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