政略結婚は純愛のように〜子育て編〜
まずは散歩だと言って広い庭をゆっくりと一周して、戻ってきてからはオムツを替えて、買ったばかりのおもちゃをカラカラと振ってやったり……。
 
とにかく、どれだけ見ていても飽きないようだ。
 
その間に由梨は、少しゆっくりさせてもらった。

「コーヒー冷めないうちにどうぞ。私が抱いていましょうか?」
 
由梨は手を出して尋ねるが、彼は頷かなかった。

「由梨が先に飲めばいい。いつもはゆっくり飲めないだろうし。それにちょっと眠そうなんだ。ほら、目を擦った。……このまま寝かせる方がいい」
 
優しい声でそう言って、沙羅を離さない。
 
由梨はふふふと笑った。
 
きっと、寝たら寝たで起こさない方がいいと言って抱いたままなのだ。

そして結局最後は、冷たくなったコーヒーを嬉しそうに飲むのだろう。
 
由梨は無理強いはせずに、ありがたくお茶をいただくことにする。

今彼が言った通り、沙羅とふたりきりの時は熱いものを熱いうちに食べたり飲んだりすることなんてほとんど不可能だ。
 
するとそこでセンターテーブルに置いてある隆之の携帯が震え、メッセージが届いたことを知らせる。
 
隆之が沙羅をしっかりと抱いたまま手を伸ばして画面を確認する。そしてなにを思ったか、由梨に向かって口を開いた。

「陽二だよ」
 
それが、昨夜由梨が彼の女性関係を疑ってしまったことを受けての言葉だ、と気がついて由梨は慌てて口を開いた。
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