さくらの記憶
プロローグ
いつからだろう…
こんな不思議な夢を見るようになったのは。

どこの誰とも分からない、遠くに見える1人の男性。

初めはおぼろげに、ただぼんやりとした面影だけ。

それが次第に、凛とした佇まいやたくましい後ろ姿になり。

やがてゆっくりと振り返って、私の名を呼んだ。

「…さくら」

なぜ私の名を知っているの?
どうして私は、あなたのことが分からないの?

いいえ、それは違う。

私はあなたを知っているはず。

だって、覚えているから。

あなたに微笑みかけられた時の嬉しさ、優しく名前を呼ばれた時の喜び、ギュッと抱きしめられた時の、心が震えるような幸せを。

間違いなく、私の心が知っている。
私はあなたを愛していたと。
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