さくらの記憶
第六章 5年前…
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5年前…

さくらは、この屋敷の見事な桜の木を見て、なぜだか吸い寄せられるように近づいたのを覚えている。

懐かしいような、安心するような、切ないような、幸せなような…

とにかく色んな感情で胸が一杯になり、思わず両手で木に触れて目を閉じた。

すると脳裏に、微笑みながら見つめ合う、着物姿の二人が浮かんできたのだった。

優しい眼差しの男の人と、幸せそうに微笑む女の人…

誰だろうと思っていると、二人はゆっくりとこちらを振り向いた。

『どうか守って…お願い…』

女の人がじっとこちらを見て語りかけてきた。

(守るって、何を?)

そう思っていると、やがて女の人が両手を揃えてこちらに差し出し、そこにパーッと輝きが生まれた。

次の瞬間、さくらは自分の身体が、じんわりと温かくなる気がした。

(なんだろう…。この人が何かを私に送っている?)

怖さは感じない。
むしろ、包まれるような安心感がある。

それは身体の隅々まで行き渡り、細胞の1つ1つに新たな生命を吹き込まれたような気がして、さくらは大きく深呼吸した。

やがて輝きが消えると、女の人はもう一度こちらに微笑みかけた。

そして、男の人と手を繋ぎ、見つめ合いながら、スーッと遠のいていった。
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