さくらの記憶
第十章 5月3日
「うーん、今日もいいお天気!」

さくらは、リビングの窓を開けて大きく伸びをする。

北斗も今日から5連休で、何がしたい?と聞かれていたが、さくらは、いつもと変わらない日々を過ごしたいと答えた。

「強いて言うなら…、北斗さんとたくさんおしゃべりしたい」

そう言うと、そんなんでいいの?と、北斗は拍子抜けしたような顔をしていた。

午前中はいつも通り家事をし、昼食を食べてから、さくらは北斗と一緒にウッドデッキでお茶を飲むことにした。

「はい、北斗さん。コーヒーとクッキー」
「ありがとう。このクッキー、さくらが焼いたの?」
「そう。味はどう?」
「うん、美味しい!」
「良かった」

さくらは微笑むと、紅茶を飲む。

「今年の桜もそろそろ終わりだな」

北斗が、桜の木を見ながら呟く。

花は半分ほど散っていて、ほんの少しの風にもひらひらと残された花びらが舞い落ちていく。

「でも、散り際もとても綺麗。儚くて美しくて…」

さくらがうっとりと木を見つめると、北斗も、そうだなと頷く。

しばらく二人で桜の木を眺めていると、やがて北斗が、
「あー、ポカポカして気持ちいい…」
と、テーブルに両腕を載せて突っ伏した。

「北斗さん?あーあ、また寝ちゃった。ほんとに寝るの早いなー」

ふふっとさくらは笑って、同じようにテーブルに突っ伏すと、顔を横に向けて北斗の寝顔を覗き込む。

(うふふ、起きてる時は恥ずかしくてじっくり見られないけど、今ならゆっくり観察出来ちゃう)

至近距離で、じーっと嬉しそうに北斗の顔を見つめていたさくらも、いつしか春の陽気に誘われ、眠ってしまった。
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