さくらの記憶
第十二章 5月5日
「さくらちゃん!」
「おじいさん、ただいま!」

次の日、退院したさくらはタクシーで屋敷に戻り、玄関で待っていた祖父に抱きしめられた。

「よく無事でいてくれた。ありがとうな、さくらちゃん」

声を震わせる祖父に、さくらも涙がこみ上げる。

「北斗さんも、大丈夫よ。しばらく入院するけど、傷は日に日に良くなってるって」
「そうかそうか、良かった。本当に良かった」

ダイニングでお茶を飲んでひと息つく。

「あの僧侶は、すぐ警察に連れて行かれたよ。なんでも、まさか人が立ちはだかってくるとは思ってもみなかったらしく、怪我をさせるつもりも毛頭なかったと供述しているらしい」
「…そう」

あの時、悪い霊を祓うのが自分の使命だと言っていた僧侶を思い出す。

(だからって、このやり方は間違っている。いきなりあの桜の木を切りつけようとするなんて…)

そこまで考えて、ハッとさくらは顔を上げた。

「おじいさん、私、あの木を見てくる!」
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