さくらの記憶
急いで玄関から林に向かう。

「尊さん、はなさん!」

近づくと、両手を幹に触れて目を閉じた。

『さくら、無事だったのね!』

(ええ。北斗さんも大丈夫よ)

『良かった…。この木を守ってくれてありがとう。でも本当に心配したのよ』

(それで、はなさん。結界は?)

『やはり、どんどん解けていくわ。あの僧侶のように、霊感のある人が近くに来たら、おそらく見えてしまうかもしれない』

さくらは、少し考えてから意を決して頷いた。

(はなさん、私が結界を張るわ。やってみる)

『さくら…。お願い、私も力を送るわ』

さくらは深呼吸して集中力を高める。

そして大きく息を吸い込むと、自分の両手に力を込めた。

(どうかこの木を守って。私達のこの桜の木を、誰にも傷つけさせたりしないで。お願い、どうか…)

さくらの両手から注がれるほのかな光は、やがて、はなの力を得て大きく広がる。

桜の木の枝の1本1本まで行き渡ると、細く小さな小枝にすらも輝きが伝わり、ピンと空気を弾いた。

大きな木が、とてつもないエネルギーを発するのを感じてから、さくらはそっと目を開けた。

「これは…」

後ろにいた祖父が、驚いて目を見張る。

「凄い…、木が輝きをまとっておる」

まるでそこだけが別世界のように、桜の木が浮かび上がって見える。

そしてゆっくりと輝きは落ち着き始め、桜の木はもとの姿に戻った。

『さくら』

はなの声が聞こえてきた。

『結界は張れたわ。今までよりも強く。ここの空気も澄み渡ってる。ありがとう、さくら』

さくらは微笑んで頷いた。
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