悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「それならぁ、わたしが立候補しちゃおうかな!」
「聖女様、いったいなにをおっしゃりたいのですかな?」
「だからぁ、わたしが皇太子様のお妃になってあげるって言ってるの!」

 私がフレッドの婚約者候補だと紹介したにもかかわらず、そんなことはマルッと無視して言葉を続ける。フレッドも眉間に皺を寄せて、はっきりと拒絶の態度を示した。

「いや、結構だ。私は心に決めた女性がいる」
「え〜、でもぉ、まだ結婚してるわけじゃないしぃ。皇太子様もわたしと結婚した方がいいでしょう?」
「悪いが、俺はその女性以外に興味はない」
「もう! 照れ屋なんだからぁ〜!」

 こんなやり取りをよく会社で見かけた。私は仕事しかできなかったから、あんな風に話せる宮田さんが羨ましくもあった。

 でもある時、社内で付き合っていた恋人をあの調子で奪われたことがあった。

 あの時は、そりゃあ、若くてかわいい女の子の方がいいよねと自嘲して涙を呑んだけれど。

「聖女様、皇太子の婚姻については慎重に決定しなければなりませぬ。どうか今日はこれくらいにしてくださらんか」
「う〜ん、皇帝さんがそう言うなら仕方ないかぁ」

 やっぱり、どう考えても中身は宮田さんだ……。
 私は足元から闇に飲み込まれていくような錯覚に襲われた。


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