悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 ボロボロと涙をこぼすへレーナに、フレッドは冷酷な視線を向けたままだ。前世でもミスをして叱られるたびにこうして泣いていたのを思い出す。
 だけど皇帝となるべく教育を受けてきたフレッドに、そんな泣き落としは通じなかった。

「言いたいことはそれだけか?」

 まさしく冷徹な皇太子として、へレーナを断罪しようと聖剣を振り上げた。
 泣き落としが通じないと判断したへレーナは、闇の力を一気に放出してフレッドの隙をついて逃げ出す。騎士たちがいるからすぐに取り囲まれ、床にうずくまっていたクリストファー殿下につまずいて転んでしまった。

「ぐふっ!」
「ちょっと! 邪魔……っ!!」 

 フレッドもすぐに追いつき、聖剣で切りつけた。

 ——ガキンッ!!

 大きな音が謁見室へ響き渡る。てっきりへレーナの闇の力が浄化されたのだと思った。

 それなのに、ゆっくりと聖剣にヒビが入り真っ二つに折れた切先が床に落ちて硬質な音を立てる。
 フレッドが切りつけた聖剣が、折れていた。


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