悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 もう闇の力も枯れ果て使えないへレーナに残されたのは、膨大な聖なる力だけだった。へレーナの闇の力が消え去ったことで、皇帝陛下たちを閉じ込めていた檻も消滅した。すぐさま近衛騎士が駆けつけ、支えられながら皇帝陛下がへレーナの前までやってきた。

「聖女へレーナ。いくらお前が聖女といえど、此度(こたび)の暴虐は許しがたい」
「ち……違う、私は……ただ、一番に……」
「黙れっ!! 我らを人質にして、このリンフォード帝国を操っていたのをずっと見ておったのだ!! 言い逃れできると思うな!!」
「ひぃっ!」

 皇帝陛下の圧倒的な覇気に気圧されたへレーナは、ビクッと肩をすくめガタガタと震えている。

「聖女へレーナには強制的に聖なる力を搾り取る魔道具をつけた上、皇城の地下牢へ幽閉せよ。命尽きるまで聖女として正しく力を使うがよい」
「嫌だよ、そんなの嫌っ! ねぇ、今度はちゃんとやるから! お願い、許して!!」

 皇帝陛下に縋りつき、涙を流して懇願するへレーナを引き剥がしたのはフレッドだった。フレッドのサファイアブルーの瞳に浮かぶのは、明確な敵意と殺意だ。
 それを感じ取ったへレーナは、ハクハクと口を動かすだけだった。

「……たとえ皇帝陛下が許しても、俺はユーリに害をなす貴様を絶対に許さない。次に俺の目の前に現れたら——迷わず殺す」

 フレッドは私ですら息ができなくなるほどの凍てつく視線をへレーナに向ける。もうなにをしても無駄だと悟ったのか、へレーナはようやく静かに項垂れた。



< 175 / 224 >

この作品をシェア

pagetop