悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「……朝からユーリの色気が半端ない」
「もう、フレッドがあんなことするから……!」

 身体の奥で燃え上がりそうな烈情をなんとか散らして、私も身支度を整えようと床に足を下ろした。

「あっ……」

 立とうとした瞬間に足に力が入らなくて、フレッドに支えられる。その逞しさと安心感にホッと息をついた。

「あー、ユーリはゆっくり休んでくれ。宿屋の主人と女将には話をつけてある」
「え、話って?」

 少しだけ嫌な予感がして、食い気味に尋ねた。フレッドの言い方では、すべて終わっているような話ぶりだ。

「言っただろう、俺とユーリが婚約したと」
「確かに言ってたわね?」
「だから俺とユーリの身分も明かして、十分な謝礼は払ってきた。ユーリが抜ける分の人材の手配も済んでるし、この部屋は俺が客として代金を払っているから心配ない」

 ああ、そういうことか。確かにフレッドのプロポーズを受けたなら、ここで働き続けるのは不可能だ。なによりも女将さんとご主人が私をこき使うなんて、いたたまれないだろう。

 そもそも私が隣国の公爵令嬢で相手が皇太子だなんて思いもよらなかったはずだ。女将さんは『ぶっ飛ばしてやるよ』なんて言っていたから、あちらはあちらでとんでもないことになっているに違いない。

< 201 / 224 >

この作品をシェア

pagetop