悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 珍しくフレッドが眉間に皺を寄せて、駄々をこねている。どうやってやきもち焼きの婚約者を(なだ)めようか。

「私が愛してるのは、フレッドだけよ」
「ここで不意打ちはマズい」
「どうして?」
「ずっとキスしたいのを我慢してたのに」

 次の瞬間にはフレッドの柔らかな唇が私のそれに触れて、甘やかな熱が広がっていく。ついばむようなキスが落とされて、いつの間にかフレッドの逞しい腕が背中に回されていた。

 扉の横で待機している侍女や侍従は、そっと私たちに背中を向けてくれた。フレッドの胸板を叩いてもキスの雨がやまない。そろそろ音楽がなってしまうと焦ったその時だ。

 管楽器の演奏が始まり、問答無用で扉が開かれる。
 思いっ切りイチャついてるのを参列者の方々に見られ、人生で最大の羞恥を味わった。

 何事もなかったかのように婚約式は終わり、民からもたくさんの祝福を受けた。これから私はフレッドの婚約者として、いずれは皇太子妃として歩き始める。

 それは、きっと楽しいことばかりではないだろう。
 それでも、フレッドの隣にいられるなら、どんなことでも乗り越えてみせる。

 ——私の最愛の人のために。


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