気になる彼はドクターヘリに乗る救急医


「先生、高梨さんが吐血しました!」


「見れば分かる!」


「心拍数、下がってます!」


「分かってるって!」


 氏家先生が私の左手に持っていた手紙を素早く折りたたみ、自分の胸ポケットにしまい込む。

 そして、ヘッドセットのマイクに向かって話し始めた。


「オペ室を開けとけっ!着いたらすぐに緊急手術だ!」


 そう言うと、先生は白井さんに視線を向けながらマイクをつかって話す。


「肋骨骨折で肺挫傷だ、分かってるな」


「さっきエコーで見たので……そうですね……」


 白井さんが私を見つめながら、ゆっくり頷いてる。

 言葉になってないけど「だいじょうぶだよ」って言ってくれてる気がした。


「おい、市川! 到着までどれくらいかかるっ!」


「向かい風に押し返されてる!もう少し時間をくれ!」


「天気は大丈夫なんだろうなっ!」


「なんとか持ちそうだ!最大限のことはやらせてくれ!」


「了解!頼んだぞっ!」



 ガタガタと小刻みに揺れるドクターヘリの中で、緊迫した状況が続く……



< 64 / 68 >

この作品をシェア

pagetop