転生した双子アイドルは伯爵令嬢に恋をする ~一途な恋の音色~
「ルカ様、お時間いただきましてありがとうございます」

「いえ、どうされましたか?確かあなたは…」

執事喫茶のあの日に来ていたご令嬢だ。
僕達1学年生が使用できる談話室でと思ったが、あまり人に聞かれたくない話だったようなので、人通りの少ない廊下へ移動した。

「はい、覚えていてくださいましたか?」

ご令嬢はホッとしたような顔をした。

「あ、あの!実は……」


僕はご令嬢の話を聞いたあと馬車へと向かい歩いていた。
学園に残っている生徒は少ない時間になっていたが、廊下でご令嬢数人に声を掛けられ挨拶をする。

「キャア!ルカ様とお話ができたわ!」

「公演会楽しみにしています!」

「来てくれるの?ありがとう」

楽しそうに帰って行くうしろ姿を見送った。

学園の中庭に通りかかり、木陰で立ち止まる。
光を受けようと力強く育っている葉の隙間からキラキラとした日差しが見えて目を細めた。

「やぁ。やっぱり噂の王子様達は人気があるんだね」

「ッ!!」

「アリストロ伯爵からも聞いているよ。ルイ様とルカ様は昔から社交界でも噂になっていたって」

「……アスター先生」

また急に現れて驚いた。

「個展、君はまだ来てくれていないよね?」

「あ、はい。音楽団の公演会が終わったら伺いたいと思います。それまでは練習に集中したいので」

「そう。お待ちしています。私も公演会にはクレアと一緒に行きますね。ではまた…」

「……はい」

アスター先生は何かとクレアとの話を僕にしてくる。
そのたびにまた醜い嫉妬に心が覆われて…。

僕の知らないふたりの話なんて聞きたくない!!
苛立つ感情のまま、木の幹に右手の拳を叩きつけようとしてピタリと止めた。

『ルカは大丈夫?ピアノを弾く手が……』

クレアが震える手で僕の両手を握りしめてくれたことを思い出す。

……僕とクレアにだって、アスター先生が知らない大切な思い出がたくさんあるんだ。
僕は右手を左手で包み込むように握りしめ、目を閉じた。


「ミッシェル先生、お待たせして申し訳ございません」

クスフォード家に戻り音楽室の扉を開ける。

「いえ、ルカ様。学園の用事は大丈夫ですか?」

「……はい。ルイ、お待たせ」

「いや、本当に大丈夫なの?」

「うん」

僕はアスター先生との会話が頭から離れず、不安な気持ちを消すことができないままピアノを弾き続けた。
レッスンが終わってもいつまでも。
ピアノが僕の心を落ち着かせてくれる。
大丈夫だと言ってくれているような気がして……。



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