その物語のタイトルはいま君の掌の中に
自転車で三角公園に向かいながら、私は何度も自身の服装に視線を移す。元々お洒落にはそこまで関心のない私だ。クローゼットの中にはトレーナーとワンピースがそれぞれ2着ずつしか入ってなかった。

(服装……間違えたかな……)

昨日蒼と会った時に着ていた水色のワンピースは洗濯中のため、もう一枚の一番のお気に入りである青い小花柄のワンピースを着てきたが、果たして正解だったのか不正解なのかわからない。

(デートじゃ……あるまいし……)

公園にくるのにわざわざワンピースを着てきたのは初めてだった。私が三十分丁度に三角公園に着くと、蒼は既にブランコに座りながら曇天を眺めていた。


「お待たせ」

「いや、暇だったし」

蒼はそれ以上何も言わない。

(暇だったし……ってことは)

「蒼くん、いつから此処にいたの?」

「あ、ごめん。気にした?」

「えっと……」

他人に話しかけるのは勿論、他人を待たせるのも私は苦手だ。

青がふっと笑った。

「俺、誰か待つの苦にならないわけ。暇だから早く来ただけだし、逆に家でじっとしてるのが嫌だから。ちなみにこうやって……彼女と……待ち合わせるの初めてかな」

彼女というのは私のことだ。すぐ顔が熱くなり気恥ずかしくなる。
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