その物語のタイトルはいま君の掌の中に
「マジで偶然って重なるよな、俺も隣町の高校昨日卒業したばっか。タメだな」

「そう、なんだ」

なんだか間の抜けた返事になってしまった。

「ちなみに俺、勉強全然興味ねぇし学年一の最低成績で、春休み終わったらフリーターまっしぐら。あ、体育だけは5だけどな」

「そう、なんだ」

なんて返事をするのが正解なのか分からなかった私が、同じ答えを口にすると蒼が額をコツンと突いた。

「困った顔すんな、俺が困る」

蒼が笑って、つられて私も笑っていた。

(ちゃんと笑ったのいつぶりだろう……)

ついさっきまでの世の中への苛立ちも未熟で何も持ってない自分も、全てが嫌になって自暴自棄になっていた私はどこへ行ってしまったんだろう。

「……ねぇ、どうしてギター捨てちゃうの?」

自分で訊ねて自分で驚く。学校でも友達はいたが表面だけの付き合いだった。適当に話をして適当に笑顔を作って、本当の自分を知って欲しい人もいなかったし、他人の事を知りたいと思うこともなかった。

「それ聞いてどうすんの?」

蒼の瞳が私の瞳と重なって、何故だか鼓動がひとつ跳ねた。

「……大切なモノなんじゃないかなって」

私は使い込まれた蒼のギターに目を遣った。

「それいうなら月瀬もだろ?なんで大事なノート捨てようとした訳?」

「それは……」

「同じ海に不法投棄しようとした仲間として聞いてやるけど?」

(仲間……)

知り合いでも友達でも家族でもない。仲間という響きがトンと心臓に響いた。

「あ、嫌なら別に無理すんなよ」
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