完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される
「借金、早く返せるといいね」
「うん」

 なんの得にもならない自分の動画のために真剣に考えてくれるのが嬉しい。田吾作がいつものように切り出した。

「ところで何度も言ってるけど、そろそろ会えない? 女の子だからネットで知らない人と会うのは怖いのわかるけど、会ったら身分証も見せるし、衆人環視の中でいいからさ」
「うん……私も会いたいけど、でもごめん。まだ勇気が出ないよ」
 
 千紗にとって田吾作は言わば紫の薔薇の人。
 ずっと支えてくれた千紗のファン。
 だからこそ会ってがっかりされなくない。

 父親が急死した時も、それが原因で高校を中退した時も、千紗は泣かなかった。
 ただ涙を呑み込んで一人で耐えた。
 本当は誰かに寄り添って話を聞いてほしかったけれど、そんな相手はいなかった。
 母親は倒れてしまったし、千紗は両親から守られていた子供から、守らなければいけない立場に突如として変わってしまったのだ。
 そんな千紗が、田吾作と出会い──オンラインではあるが──弱い自分をさらけだすことで、救われたのだ。
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