白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

第2章

○武家屋敷・客用寝室(朝)

 ジッと見つめる青紫色の瞳が私を捕らえて放さない。
 そもそもなぜ同じ布団の中にいるのかとか、嵌められたのでしょうか。人外であるアヤカシや神様は気に入った者を連れ去るなどの行為を得意とする。
 そんなことを祖父が話してくれたことがあった。あれはもしかすると私のことを考えて注意するように言ったのかもしれない。

(いやでも、ちょっと待って、婚約? 未来の花嫁!?)
「小晴?」

 色香たっぷりに言われてもそう簡単に言えるセリフではないのですが、この人は期待の眼差しを向けてくる。眩しすぎて眼中が潰れそうなのですが。

「……急な展開に困惑しています。え、ええっと、まずどうして私なのでしょう?」
「小晴を気に入ったから。傍にいたい」
「ちなみに紫苑さんは何者なのですか? ただの人ではないですよね……。浮いていましたし」

 この抱きしめられているのに恋人のような甘い雰囲気というよりかは、小さな子供が甘えているような純粋というか無垢さがあるからだろうか。

「私は――概念的に言えば万物の一柱であり、理に近しい存在の一つだろう」
「神様みたいなもの、だということですか?」
「そう。別段珍しくもない。どこにでも居る」
「珍しくない。……ナルホド?」

 それからいくつか紫苑さんと話してみたが、何というか概念そのものが難しいので頭に上手く入ってこない。とりあえず生贄にされたとか、無茶苦茶な要求をしてくる気配はないので少し安心した。

 それからすぐに緑髪の眼鏡を掛けた男が襖を開けて姿を見せた。彼は紫苑さんのボディーガードと思っていたが、どうやら違うようだ。

「改めましてお館様の側近を務めております、左近(さこん)と申します」
「ご丁寧にどうも。……私は」
「柳沢小晴様ですよね、お館様から伺っております。……隣の部屋に食事を用意しておりますので、どうぞこちらへ」
「小晴。私が抱えて運んであげよう」
「あ、いえ。結構です」
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