白蛇神様は甘いご褒美をご所望です
(あ、これも夢……)
「小晴? 寝てしまうのか?」
少し寂しそうな顔をする紫苑さんの顔に手を伸ばす。頬に触れてみるが少し冷たいが本物のようだ。残念ながら。
紫苑さんは嬉しそうに私の手にすり寄る。それは動物が好いているときに見せる仕草に似てちょっと可愛いと不覚にも思ってしまった。
「え、あ、え。夢じゃない?」
「そうだ。昨日のも夢ではない」
「昨日……――っ!」
不意に自分の家と店が火事になったことを思い出す。慌てて起き上がろうとしたが、紫苑さんに羽交い締め――腕の中に囚われているので起き上がれなかった。というか、どうして一緒に寝ているのかも、まったくわからない。わからないことだらけだ。
どこからが夢で、どこからが現実なのか。
「落ち着いて。もう少ししたら朝餉を左近が持ってくる。その時に順序よく説明するだろう、左近が」
「(左近さんに丸投げ!?)……紫苑さんがするんじゃないのですね」
「私はそちらの世界の世情には疎い」
(そちらの世界……)
何となく感じていた。
昨日の一件で、現実と夢の境界線が私の中でゴチャゴチャになっている。けれど確実に言えるのは、紫苑さんが人とは異なる存在だと言うことだろうか。
浮世離れした雰囲気に、独特な口調。
人外の美しさ。
(私はそんなものに囚われてしまった?)
「不安そうな顔も可愛いが、笑顔の方がもっといい」
「えっと、根本的なことを伺いますが」
「うん」
「ここはどこでしょう?」
「幽世と呼ばれるあの世とこの世の狭間――と言えば小晴には何となく分かるか?」
「何となく……は。ちなみに私は死んでいませんよね?」
「もちろん。そうしたら私と一緒になれないだろう。泣いてしまう」
「一緒……」
ものすごく不穏当なワードに踏み込むべきか、なあなあで誤魔化すべきか。
悩む私に紫苑さんは抱き寄せた。それはお気に入りの抱き枕をギュッとするような感じで、丁寧に扱ってくれた。
「そう、一緒。改めて、これからよろしく。私の婚約者、いや……未来の花嫁」