白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

「そうだったのですね。そう思っていただけて嬉しいです」
「ふふっ、ああ、でもさっきも言ったけれど、ネット販売だけでも早めに復活した方がいいわよ」
「え?」
「私以外にも小晴ちゃんのファンは沢山いるのよ。でも小晴ちゃんのところは一人で切り盛りしているから、あまり無茶な発注はできないし、体調を崩しても困るだろうってなって毎月ネット会議が開かれているのよ」
「は、初耳です」
「ええ。非公式だもの」

 そう言って時雨さんは悪戯っ子のように微笑んだ。知らないところで飴が好評なことに嬉しくて口元が綻んでしまう。

「一般枠の発注も来るだろうから無理がない感じで頼んでいるのだけれど、みんな本当はもっと小晴ちゃんの飴が食べたいと思っているし、会いたいとも思っているのよ」
「あ、もしかして皆さん遠方に住んでいらっしゃるとか?」
「んー、まあ、そうね。それと殆どが高位の妖怪とか神様だから、おいそれと土地に訪問するのは難しかったりするのよね。抗争の種になりかねないし。幽世も現世もいろいろあるのよ」
「……何だか大変そうなのは伝わってきました」
「まあ、欲望に忠実な所は人間的側面が強いからね。神様の場合はその土地に大きな影響を与えてしまうから、自粛してもらっているのよ」
「どの界隈も色々と大変なのですね」
「ええ。均衡が取れた場所もあるけれど、荒ぶる妖怪たちすら魅了するこの飴は、私たちにとって最高級品の食べ物に等しいの」
(過大評価な気がしなくもない……)
「まあ、そう言うわけだから店の再開を楽しみにしているわ!」
「はい! ありがとうございます」

 こんな形で自分の店が人外たちに支えられているとは意外だった。しかも知らない間に私自身のキャパを考えて購入してくれるとはなんとも難有い。

「ささ、世間話はここまでにして、婚約指輪を選ぶのでしょう。どれがいいかしら?」

 時雨さんはパッと商売人の顔になって、テーブルに並べてられた指輪を見るようにソファへと促した。
 宝石が付いたものから繊細なデザインなど見ていて溜息が出てしまう。

「小晴が好きなものを選んで」
「それは嬉しいのですが、私を抱き上げているのを下ろしてもらうことは……」
「私が寂しくなってしまう」
(ぐっ……可愛い。この一日で私が断りづらい言葉をセレクトしてくるなんて……)
「はいはい。恋人同士のイチャイチャは指輪選びが終わってからにしてちょうだい」
「――っ、はぃ」
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