白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

第6章

 ○武家屋敷・客室(夜)

 耳元で告げられた声にビクリと体が驚き、自分が寝落ちしていたのだと気付く。どのくらい眠ってしまっただろうか。そう思って顔を上げた瞬間、肩をポンと叩かれて慌てて振り返った。

「小晴?」
「あ、紫苑。私、眠っていたみたいで……」
「そのようだな。何度か声をかけたのだが、返事がなくて無断で部屋に入ってしまった。すまない」
「いえ……。思っていた以上に気が張っていたのかと……。でも、今回の件はそんなに落ち込まないで済んだのは紫苑が同席してくれたからです」
「可愛い。うん、可愛い」
(途端に語彙力が失ったのは何故……)

 紫苑は宝物を扱うように私を優しく抱きしめた。その温もりにまだ安心してしまう自分がいる。自分の中にある凍えそうな冷え切ったものを溶かす。
 私の安心とは違うのかもしれないけれど、紫苑は私に触れることが多くスキンシップも多い。何となくだけれど、私がここに居るというのを実感したいのだろう。

「紫苑は今までどなたかとお会いになっていたのですか?」
「ああ。面倒な神が来訪するらしく、先触れで来ていた」

 少しだけ離れていただけなのにしょんぼりしている。だから余計にぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。
 何というか微笑ましい。
 こんなに綺麗で美しくて、何でも持ってそうなのに些細なことに慣れていない生まれたての子供のような顔を覗かせる時がある。
 だからだろうか、無意識に彼の頭を撫でてしまう。
 その言動に紫苑は目を瞠った。

「あ……ええっと……」
「くすぐったいが、嫌じゃない」
「それはよかったです。……誰にも頭を撫でられたことはないのですか?」
「後頭部を強打されたことや、槍で串刺しにされた以外はないな」
「…………一体何があったのか気になりますが、聞かないことにします」
「それは残念。いつか聞きたくなったら言ってくれ」
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