白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

 自分のことに興味がないと判断したのか切なげな声で、首の頭を埋める。拗ねた子供のようでちょっと可愛いと思ってしまった。ふわりと白檀の香りがする。

「はい。……でも、紫苑の昔のことを聞きたくないとかではないですよ」
「違うのか?」
「ええ、その大切な人が傷ついて、怪我などを負うと人間は心配で心臓がギュッと苦しくなるのです。今日はいろんなことがあって心が疲弊してしまっていて、紫苑の話を真剣に聞くには、少し私の準備不足なのだと思います。なので、後日落ち着いてから聞かせて貰ってもいいですか? 紫苑がどんな生き方をしてきたとか、どんな風に思っていたとか……知りたいのです」
「小晴……ああ、そうだな」

 さすがに疲れて頭が回らない状態で聞きたくなかったので提案をしたら案の定、すぐに機嫌を直してくれた。神様はこんなにコロコロと表情を変えるのだろうか。
 ふとそんなことが脳裏に過った。

 ***

 ○街中・車の中(昼間)

 駆動音の感じさせない滑らかな走りは心地よい揺りかごのようだった。生まれて初めて黒塗りの高級車に乗った時は緊張でガチガチだったのに、人間とは順応する生き物のようで一週間経てばあっという間にリラックスしている自分がいた。

 浅緋の一件もあり、レンタルキッチンの利用場を適度に変えるため移動手段は車となった。電車とバスを使っても良かったのだが、紫苑は人混みが多いところだと人払いでは効果が薄れてしまい、注目を浴びて面倒ごとになる可能性がたかいとのことで左近さんに説得させられた次第だ。

 通常サイトは右近さんと左近さんに相談し、限定販売に切り替え、人外界隈用の特別サイトでは紫苑を含めた人外界隈の価格設定をお願いした。現在は受注生産のみにして様子見状態をする運びになった。ちなみにこの特別サイトは紫苑経由で紹介制にしており、少しずつ浸透していく見積もりらしい。

(飴細工一つに数百万という世界に未だ震えが止まらない……。詐欺じゃないかと思うほどのぼったくりなのだけれど……人外的にはそれぐらいお小遣い程度の金額だって言うし……金銭感覚がおかしくなりそう)

 ふと赤信号で車が止まり、窓の外西線を向けた。
 十二月になると赤と緑の色合いが増え、モミの木などのイルミネーションが目に留まる。ハロウィンが終わった当たりでクリスマスに関連したものは街の至る所にあったし、仕事でもクリスマス仕様の飴細工を考えたりしていたので、まったく忘れていたわけではない。
 私が忘れていたのは紫苑とのクリスマスプレゼントについてだ。

(こ、婚約者としてクリスマスは一大イベントの一つだけれど、それは人外にというか神様にも適合するのかしら? というか祝うもの? でも贈り物をするにはよいタイミングなような?)

 まだ十二月中旬なのでリカバリーがつくだろう。
 火事などでの諸々な手続きやら、レンタルキッチン通いなど慣れてきたからこそ気づけたことでもあった。

(婚約者らしくイベントに合わせて贈り物をしたい……と言ったら紫苑はどう思うのかしら?)
「小晴?」
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