白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

 今日も私の飴作りに同行する紫苑は窓の外を見ていた私に声をかけた。黒塗りの高級車に乗りながらかなりの広さがあるのに、彼はぴったりとくっ付いている。
 白紫色の長い髪がさらりと一房肩から流れ落ちた。たったそれだけの仕草なのに絵になるほど美しい。数秒ほど見蕩れたのち、慎重に言葉を選ぶ。

「ええっと、幽世ではクリスマスってどのような扱いなのでしょう? 日本人のお祭り好きのように楽しんだりするのでしょうか?」
「ん、ああ。その当たりは個人差があるからな。行事によって参加不参加様々だが、別段何か祭りごとはないな。むしろ十二月は邪気や穢れの祓い関係で忙しいから幽世では荒れている。烏天狗たちが取り締まっているが……」
(なんだろう。一気に殺伐した世界観が見えてしまった……)

 ちょっと心が折れかけているが、何とか自分を鼓舞して言葉を紡ぐ。

「クリスマスは豊作と魔除け、永遠、来年の幸福祈願という意味があるらしいのですが、婚約者として親睦を深めるためにも一緒に過ごして、美味しいものを食べて、プレゼント交換などしませんか?」
「プレゼント交換?」
「クリスマスでは親しい人にプレゼントを贈り合うという習慣があるので、紫苑がそういったイベントごとが嫌いじゃないなら……やってみたいのですが」

「ひゅっ」と、息を呑む声と共に、青紫色の綺麗な瞳が煌めいた。

「小晴と一緒にか?」
「はい」
「しよう。そうか……独りではないと、こんな風な行事も参加できるのか」

 目を細めて嬉しそうにはしゃぐ紫苑に「はい」と力強く答える。プレゼント交換は当日までお互いに内緒にして交換し合うことで話をまとめたが、上限は一万以内ということで落ち着いた。前回の結納として伝説級の贈り物を貰ったので、保険を掛けておいて良かったと心から思った。

(金額とか決めておかないと国宝レベルのものを貰う羽目になるものね)
「ふむ、一千万か」
「違います! 一万円。福澤諭吉さんです!」
「……殆ど何も変えないと思うが?」
「ぐっ……」

 ここにきて金銭感覚のズレに衝撃とショックを受けることになるとは思わなかったが、味覚はそこまでズレていないはずだ。

「私の飴細工は一万円がセットで十個は変えます」
「馬鹿な。あれだけの飴ならば一粒、一千万でも十分価値はある」
「……私の飴への価値基準が可笑しい」
「お館様、前にもお伝えしたとおり人外界隈の場合においての価値と、現世での価値は異なる場合がございます」
「そう言えば報告書にもあったな」
「はい。ですので、小晴様との金銭感覚のズレを修正するために幽世での買い物やらデートを増やしてもいいかもしれません」
(そっち!?)
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