【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
不思議な田中くん
 恋を自覚しても、私に積極的なアピールとか出来るわけがない。

 自分の容姿が人並みってことは自覚しているし、超絶イケメンな田中くんに釣り合うとは思えないし。

 何より、休憩時間のたびに男女問わず囲まれている田中くんには近付くことも出来ない。


 一週間というブランクがあるとは思えないほど、勉強もスポーツも万能な田中くんはあっという間に学年中の人気者になった。

 隣の席とはいえ、授業中以外はまともに話しかける事も出来ない。

 その授業中だって、基本的には先生の話を聞くだけだから積極的に話なんて出来ないし……。

 出来ることといったら、近くで彼の横顔を盗み見ることくらい。

 おかげで授業に身が入らなくなって困るんだけどね。


「隣の席なのに、今日も会話せずに終わっちゃいそうだなぁ……」


 私は教室の後ろに飾ってある鉢植えに水をやりながらため息をついた。


「ちゆ? また花に水あげてるの?」


 奈美ちゃんが自分の席からわざわざ後ろまで来て話しかけてくる。


「うん。……今日の日直の人も忘れてるみたいだから」


 教室に飾ってある花の水やりは日直の仕事だ。

 でも忘れてしまっているのか、今までの日直の人はみんな鉢植えに水やりをしていない。

 ペチュニアの花がしおれているのを見ていられなくて、私が勝手に水やりをしているんだ。
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