【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
***

 田中くんとは中々話せないけれど、友達との距離が縮まってきたそんなある日の授業中。

 いつものように田中くんの横顔を盗み見てポーッとしていたときだった。

 田中くんが肘を動かした拍子にシャーペンが机から落ちてしまって、あっと思う。

 当然床に落ちると思ったシャーペンは、何故か空中でピタリと止まったように見えた。


 ……え?


 有り得ない現象に固まっていると、田中くんの手がサッとシャーペンを掴む。


 あ、あれ? 気のせいかな?


 あまりにも有り得なくて気のせいとしか思えない。

 私は確かめるように視線を上げて田中くんを見た。

 するとバチッと目が合って一瞬息を止めてしまう。

 田中くんも驚いた顔をしていて、その様子は“しまった”とでも言っている様にも見える。


 え? 何? まさか気のせいじゃないの?


 田中くんの綺麗な顔を見つめたまま固まっていると、彼は人差し指を立てて自分の口に当てた。


“ヒミツ”


 声は出さず、口パクでそう言ったんだと思う。

 そしてニッと笑みを浮かべた顔を見て、私は一気に顔が熱くなった。

 どうして空中でシャーペンが止まったのかなんて疑問は頭の中から吹き飛んじゃったよ。

 私は、田中くんと二人だけのヒミツを持ったみたいな状況にただひたすらドキドキしていた。
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